安いものにはワケがある-米国産食肉の安さのもう一つの秘密-【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】2020年5月21日
米国産食肉の安さのもう一つの秘密がコロナ・ショックで露呈した。安いものには必ずワケがある。食肉生産の肥育における成長ホルモン投与も安全性を犠牲にしてコストを下げる効果があるが、米国などの食肉には、もう一つの問題が露呈した。食肉加工場の劣悪な労働環境だ。
米国などの食肉加工場での劣悪な労働環境での低賃金・長時間労働の強要が新型肺炎の集団感染につながったことをアジア太平洋資料センター(PARC)の内田聖子さんが詳細に報告している(https://hbol.jp/218839)。
米国時間で5月6日のCNNニュースでもアイオア州の食肉加工場で2000人の作業員のうち500人が新型肺炎に感染した(感染率は日本政府が放置したダイヤモンド・プリンセスの20%より高い)ことが報道され、米国の消費者が肉を求め殺到しているとの報道もある。米国産食肉への依存度の高い日本への供給にも影響が出ることに留意しないといけない。
さらに重要なことは、食肉加工場の集団感染から、低賃金・長時間労働で不当にコストを切り詰めて輸出競争力を高めるソーシャル・ダンピングと、衛生面・安全面も含めた環境に配慮するコストを不当に切り詰めて輸出競争力を高めるエコロジカル・ダンピングともいえる実態が炙り出されたことだ。米国などの食肉の安さは労働や環境コストを不当に切り詰めることによってもたらされていることも、図らずもコロナ・ショックが露呈させた。
本来、負担すべき労働や環境コストを負担せずに安くした商品は正当な商品とは認められないのであり、輸入を拒否すべき対象といえる。安いと言ってそれに飛びついてはいけない。この点からも、国産こそが本当は安いのである。
スイスは2017年の新憲法において「104a条 食料安全保障」を明記し、「d. 農業と農産食品部門の持続可能な発展に資する国際貿易」を推進すると宣言した。これは、輸入相手国に対しても持続可能な農業生産でない、要するに、生産段階で燃料や化学肥料を大量に使うなど、環境への配慮が低く、安全・衛生水準が低く、労働条件が劣悪な国からの輸入を制限するということを意味する(石井勇人共同通信アグリラボ所長)。
ドイツでは、持続可能性指標として、持続性のある資源利用(有機肥料や家畜糞尿の活用など)、生物多様性、土壌・水・大気の保護、雇用環境、採算性、安定性、社会貢献などの指標に基づいて農産物の生産環境・背景などを各10点満点で評価し、それを取引に活用していこう(例えば、点数が基準以下のものは取引しないとか、点数の高いものを優遇するなど)という動きがある(前出・石井氏)。
日本も、欧州に学び、日本が輸入する食料に対して、持続可能性に配慮しないことによって不当に安く供給されるものは受け入れない、という明確な基準を設定し、貿易交渉で主張すべきであろう。関税削減を強いられる中で、そうしたルールの明確化を、安全・安心な国産食料を守る一つの防波堤にしていく必要があろう。
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