新型肺炎第2波への備え【森島 賢・正義派の農政論】2020年5月25日
政府は、新型肺炎に関わる緊急事態宣言を、今日中に首都圏も北海道も解除するようだ。そうなると全都道府県で解除することになる。
これまで順次に解除してきたが、そのとき重視してきたのは、感染状況、医療体制、検査体制の3つの状況だという。この3つの状況の全てが好転したから解除した、といっている。今度もそういうのだろう。
その一方で、ほとんど全ての専門家は、やがて感染の第2波がくるだろう、といっている。その備えはどうなっているのか。今後の備えを考えるとき、まず初めになすべきことは、これまでの対策の評価と反省である。事実と科学に基づいた評価と反省である。
はじめに検査体制を考えよう。
日本の検査数が異常に少ないことは、世界中から奇異の目で見られている。
たとえば、オックスフォード大学の研究班の資料によれば、人口千人当たりの検査数は、ドイツが37.57人、韓国が15.88人である。これに対して日本は2.12人にすぎない。また、OECDの資料よれば、日本の検査数は、36の加盟国のうち35番目である。つまり、ビリから2番目である。
こうした世界の状況のなかで、日本の科学者は恥ずかしい思いをしているようだ。
先日、ノーベル賞を受賞した山中伸弥教授は、安倍晋三首相とのネット対談で、検査数を10倍、100倍にすることを提言したが、首相は関心を示さなかった。
◇
これまで日本は、検査の受け入れ能力にあわせて検査数を制限してきた。医師が必要と判断しても、政府は検査機器も少ないし、それを操作する技術者も少ないからといって、検査を拒否してきた。その結果、多くの感染者が、治療の手遅れで重症化し、さらに死に至らされた。
これは、本末転倒である。検査機器の数に合わせて感染者の数を制限するのではなく、感染者の数に合わせて検査機器を整備しなければならない。検査能力が小さいのなら大きくすべきである。だが、そうしない。
◇
検査の受け入れ能力が小さいから、検査数を増やせないというが、それは事実と違う。大学には多くの検査機器があるし、それを多くの人が日常的な研究で使っているという。いまは緊急事態なのだから、大学に協力を要請すればいいのだが、それをしない。
また、PCR検査だけにこだわっているが、その他にも種々の検査がある。しかし、それで検査しようとしない。
これらの点を反省し、改善しなければ、大きな第2波は抑えられないだろう。そうして、多くの感染者が重症化による苦痛を強いられ、また、死の追い込まれることになるだろう。
◇
つぎは医療体制である。ここには隔離体制を含めるべきだろう。
ここにも本末転倒がある。
病床に余裕ができたから、外出の自粛などの規制を緩めるという。これは、病床が逼迫すれば、再び規制を強化することを意味している。そしてこれは、病床が不足する事態になれば、軽症者には医療を拒否する、という脅しである。そのために検査体制を未整備のままにしておいて、感染者の数を少なくしておく。
いったい、病床は何のためにあるのか。感染者のために病床があるのである。病床を使うために感染者がいるのではない。病床が足りないのなら、増やすべきである。だが、それをしない。
◇
最後に感染状況である。
新規の感染者の数が少なくなったから、緊急事態宣言を解除するのだという。いくつかの状況からみて、このことを否定はしない。しかし、ここでの科学的根拠は極めて薄弱である。
いったい、緊急事態宣言を出す前は何人いて、いまは何人になったのか。その実態さえ分かっていない。政府から検査を拒否された、しかし実際には感染者という人が何人いるか、が分かっていないのである。
これでは、これまでの対策の科学的な評価はできない。反省のしようもない。だから、第2波に備えるための科学的な対策を考えようがない。
◇
いまなすべき重要なことは、検査体制の抜本的な整備と、それによる検査数の飛躍的な増加である。そうして、感染の実態を正確に把握することである。
これと同様に重要なことは、すでに感染し治癒した人で抗体を持っている人など、免疫力のある人の数を正確に把握することである。
こうした実態の正確な把握のもとで、第2波に備えることである。
それを万全なものにするために、政府がなすべきことは、国民に対する説教ではない。隔離体制と、重症化を防ぐ治療体制の整備である。
それと同時に、政府がなすべきことは、他用途の治療薬の転用のための研究と、ワクチンの創出に対する強力な支援である。新しい検査方法や治療方法に難癖をつけることではない。
(2020.05.25)
(前回 国民に犠牲を強いる新型肺炎対策)
(前々回 学術論文の作法)
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