いよいよ来月に「コメの画像取引」を実施【熊野孝文・米マーケット情報】2020年5月26日
このコラムで「コメの画像取引」は可能か? と題してその可能性について紹介したのは2018年1月9日であった。それから2年余りが過ぎていよいよそれが実現する日がやって来た。
全国米穀工業協同組合(略称全米工 東京都千代田区 中島良一理事長)は6月11日に名古屋で開催されるコメの取引会で、Web上で「コメの画像取引」を実施すべく準備を進めている。
全米工は2018年1月11日にコメの計測器メーカーが画像解析度が格段に進歩した新型穀粒判別器を開発したことから、それを原料米の取り引きに活かせないか検討するために3社を招いて会場でお披露目式を行った。そのうちの1社に依頼して毎月1回東京で開催される取引会に組合員各社が出品した原料米(特定米穀)のサンプルを画像解析して品位データを計測、それと成約した価格の相関性を調べ、情報を蓄積してきた。1年以上にわたる情報の蓄積で相関性が認められたことから新年度の事業計画の中で組合のホームページに取引会ごとにサンプル画像とデータをアップして取り引きの円滑化に活かすようにする計画を立てていた。ところがコロナ禍で総会が書面総会に切り替わり、取引会自体も2ヵ月にわたり中止された。組合員からは早く取引会を再開してもらいたいという要請がなされ、執行部で会場に集まらないで取り引き出来る方法を検討した結果、Web上で取り引きするというプランが持ち上がった。
しかし、原料米(特定米穀)は一般検査米と違い産地銘柄・等級で価値判断出来るものではないため、それを解決する手法としてWeb上に(株)ケット科学研究所の新型穀粒判別器RN-700でサンプルを画像解析したデータとスマートフォンで撮影したサンプル画像をアップすることにした。
Web画像取り引きの具体的な取り進め方のイメージは、まず全米工組合事務局より組合員全社に開催日時とIDパスワードがメールで送られてくる。組合員はその日時にIDを入力するとパソコンやスマホ上に画面が立ち上がり、参加者全員の顔がわかる。取引会にはリアルな取り引きと同じように画面上に一人場立ちを立てる。次にエクセルで作成した売り希望のサンプルが番号に表示される。参加者はそのサンプル番号をパソコン上でクリックするとサンプル画像と品位データがアップされる。画像は拡大することが可能で、被害粒の程度や色まで鮮明に見ることが出来る。データは正常粒・粉状質・砕米・着色などの品位が細かく表示される。画像とデータを確認することでそのサンプルの価値判断が出来るようになっている。
エクセル上の売り希望一覧表には売り人、種類(中米、無選別、白米、ヤケ米、砕米など)、数量、価格、受渡場所等条件が記載されており、リアルな取り引きと同じように場立ちが出品順番に従ってそれらを読み上げ、買い声を求め、セリを行って成約に結び付ける。
会場に行かなくても全国どこからでも組合員はWeb上で取り引きに参加出来、しかもエクセルデータは画像も含め保存できるため何度でも確認できるというメリットがある。実際に画面上にアップされた特定米穀のサンプル画像を見てみるとこれがスマートフォンで撮影した画像なのかと思えるほど鮮明で、拡大すると米粒一粒ずつの被害程度が分かる。穀粒判別器だけでなくスマートフォンの画像解析度も格段に高度化してこうした画像を見ることが可能になった。
こうしたコメの画像取引を実施することになった最大の要因はコロナ禍で人が一カ所に集まることが出来なくなったことにあり、その意味ではコロナ禍がコメの新しい取引手法を後押ししたと言う事も出来る。もうひとつ後押ししたものと言えば、農水省が2年産米から新型穀粒判別器で画像検査したものを政府備蓄米として買い入れることを決めたことにもある。これまでコメの品位を担保するものは人間が目視して格付けするものに限られていた。一般米は農産物検査法によりその基準に従って格付けされて来た。特定米穀はサンプルを直接見てその価値を判断していた。それが新型穀粒判別器とスマートフォンの進歩によりデータ取引できるようになったのである。まさにコメの取引において革命的な出来事であると言える。コメの生産者が気象変動で被害に遭い、コメの品位が低下して「これは売り物にならない」と諦めていても、そのコメをスマホで撮影して全米工事務局に写メールすれば取り引き出来る時代が来たのである。
中島理事長はこのWebコメ画像取引について「二段階、三段階飛躍した取引で画期的だ」と表現している。
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(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】
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