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(182)誰が500万トンを獲得したか【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2020年5月29日

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【三石誠司 宮城大学教授】

米国農務省5月12日発表によると、2020/21年度の世界のコメ生産量(精米ベース、以下同じ)はついに5億トンの大台に乗ったようだ(5億196万トン)。これは史上最高の生産量である。需要も4億9812万トンとほぼ等しい。日本では一部を除きコメは生産も消費も低調のようだが世界の流れは全く逆だ。コメの需要は過去20年間だけでも絶対量で1億トン増え、平均成長率は101%である。

ところで、同じ農務省発表の数字を少し加工すると、見えにくかった世界の流れがよくわかる。世界のコメの生産と消費が増加しているのであれば、当然、コメの貿易量も増えるはずだ。かつて、筆者が若い頃は、「一粒たりとも入れない」とか、「コメは生産地での消費が中心で貿易量が少なく、国際コメ市場は非常に底が浅い」ということが言われていた。トウモロコシや大豆に比べれば確かにその通りであろう。

だが、30年以上前の常識で凝り固まっていては困る。過去5年の数字を見ただけもコメをめぐる世界の状況がダイナミックに変化していることがわかる。2015/16年度には世界のコメ貿易量は約4000万トンであったが、2020/21年度には4521万トンと約500万トン増えている。日本国内のコメをめぐる縮小イメージとは逆に、世界のコメ需要、そしてコメ貿易は伸びているという事実をしっかりと再認識した方が良い。

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問題は、その伸びているコメ需要、特に誰が輸出をしているかである。年ごとの数値の変動は様々な条件に左右されるが、一定の期間を通した比較であれば、それなりに整合性は取ることができる。そこで、5年前と今年のコメ輸出国の顔ぶれおよび数字の伸びを単純に比較したところ、非常に興味深いことがわかる。

500万トンのうち、6割弱の283万トンを中国が占めている。第2位はヴェトナム152万トン、第3位はインド94万トン、第4位はミャンマー90万トンである。単純な合計だが、上位4か国で618万トンと、500万トンをはるかに上回る。その理由は簡単で、この5年間に輸出を大きく減少させた国があるからだ。

これを見ると、国際コメ貿易市場で何が起こったかは一目瞭然である。個別各国の数字の増減は作況や国内需要との関係でより詳細な検討が可能であろう。ポイントは2つである。

第1に、コメの輸出を伸ばしたのは、基本、中国、ヴェトナム、インド、ミャンマーの4か国であること。第2は、残念ながら日本はこれらの一角にすら食い込めていないこと、である。

現在、コメの生産量は、中国(1億4700万トン)とインド(1億400万トン)が年間1億トン以上のスーパーメジャーに相当し、1000万トン以上のメジャー生産国はバングラデシュ(3600万トン)、インドネシア(3490万トン)、ヴェトナム(2750万トン)、タイ(2040万トン)、ミャンマー(1310万トン)、フィリピン(1100万トン)の6か国だけである。

日本(765万トン)、パキスタン(750万トン)、ブラジル(687万トン)、米国(686万トン)、カンボジア(578万トン)あたりがその下の第2グループを形成している。

生産コストの高い日本のコメの大量輸出など無理だという相変わらずの言い訳は恐らく山のように可能であろう。だが、とりあえず、様々な知恵を絞り、年間100万トンくらいを原材料のままでも良いし、加工品の形でも良いのでコンスタントに輸出出来ないものか、とつい考えてしまう。

基本は単純である。5年間で500万トンも拡大したマーケットにほとんど食い込めず、今後、2029年までにはさらに500万トン近く増加するマーケット(2029年の貿易量は5,478万トンと予想されている)を目の前にしてそのままでいるのは歯がゆいではないか。

これは知恵と能力の問題なのか、それともやる気の問題なのか。縮小する国内市場で血みどろのパイの取り合いをするくらいなら、農家には最大限作ってもらい、国も商社も、そして農協組織も、需要が着実に伸びている海外市場の獲得を必死でやるべきではないのか。

  
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】

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