新型肺炎対策にみる中央集権制崩壊の予感【森島 賢・正義派の農政論】2020年6月1日
新型肺炎についての緊急事態宣言は解除されたが、新型肺炎が終息したわけではない。治療薬が作られ、ワクチンが作られて、それを必要とする地球上の全ての人に行きわたったとき、はじめて終息したことになる。多くの専門家によれば、それまでには最低2年かかるという。
それまでの長い間は、このウイルスと共存するしかない。息をつめて、こらえている訳にはいかない。そして、その後、もとの状態に戻るわけではない。社会、経済だけでなく、政治も、もとには戻らないだろう。
はじめに、政治を規定する経済をみてみよう、いったい、それは今後どのように変質するのだろうか。
歴史家によれば、いままでのパンデミックは、多くの人間の生命を奪っただけでなく、社会の潮流を大きく加速したという。100年前のスペイン風邪は、第1次世界大戦の終結を早めたし、14世紀のペストは農奴解放の流れを加速したという。
こんどの政府の要請による外出自粛、テレワークは、新しい労働様式への流れを加速しつつある。多くの人は、分散型であるテレワークのほうが生産性は高いという。だから、今後もこの労働様式は、多くの分野で採用されるだろう。
◇
分散型のテレワークは、18世紀の工業が、家内制手工業から工場制機械工業に代わり、その後の産業革命の原動力になったように、新しい生産様式を生み出すのかもしれない。
そして、その具体的な原動力は、工場の組織労働者だったように、こんどはテレワークを担う労働者が、大勢の失業者、半失業者などとともに経済を動かし、社会を変革する原動力になるだろう。その可能性をはらんでいる。その具体的な形は、まだ見えていないが、やがてその全貌を表すにちがいない。
◇
この分散型社会の萌芽を、新型肺炎対策でみた政策決定過程にみてみよう。それは、中途半端な地方自治制度にみられる。本来、地方自治は分散型を目指す制度だが、それが中途半端になっている。
それを明確に示したものが、外出自粛と休業の要請である。都道府県は、要請する権限は持っているが、要請に従った人たちの損失を補償する財源をもっていない。財源をもっていないことは、権限をもっていないのと同じだ。
これでは、新型肺炎の第2波の襲来が必至だといわれる中で、対策の決定と執行に全責任を負う機関がないことになる。そして、無責任体制が続くことになる。
◇
具体的にみてみよう。
多くの知事たちは、現場の近くで感染の実態をみている。そして、事態を正確に見定めようとしている。そうしなければ、適確な対策はできない。
そのためには、科学の力をかりるしかない。いったい感染者が何人いるのか。感染者を隔離し、治療する病床を充分に確保できているか。それが分からなければ、科学の力は発揮できない。
しかし、政府は事態を正確に把握しようとしない。そうして、似非科学的な対策をとっている。何故か。
◇
政府は、事態を正確に把握すると、不都合なことになることを懼れている。
不都合なことというのは、感染者の数を実態にあわせて正確に把握すると、その数の感染者を収容する隔離病棟と治療体制を作らねばならなくなることである。そのためには、カネが必要になる。
これが、政府にとって不都合なのである。不都合なことを隠蔽するのは、安倍晋三政府の得意技である。
◇
政府は、この得意技を使って、感染者数をできるだけ少なく見せかけたい、と考えている。そのために、検査をなるべく少なくする。
喀痰による検査や、ドライブスルー検査などの簡易な検査はしたくない、と考える。国産技術で作った自動検査器も非科学的な難癖をつけて使いたくない、と考えている。
その結果、政府から感染者と認定されず、政府によって隠蔽された感染者が、市中のあちこちに多数いることになる。その数は専門家によれば、認定された感染者の10倍ほどいるだろう、という。この人たちは、新しい感染源になるし、重症化するまで医療を受けられない。
このように、政府は国民を犠牲にして隔離病棟を作るためのカネを惜しんでいる。
◇
知事たちと政府との間の確執は、ここに起因している。知事たちは検査体制の拡充と、隔離・治療体制の充実を要求している。しかし、政府は応える意志がない。要求の意義を理解する知力もないし、実行する胆力もない。
これを解決するには、政府が持っている検査体制を拡充する権限と、隔離・治療に万全を尽くすために必要なカネを知事たちに渡すしかない。
国民のための新型肺炎対策は、これしかない。
いま政治に求められていることは、明治以来つづいている中央集権体制を打破し、地方分権体制の強化を実現することである。それは、協同組合の思想と近親性の高い体制になるだろう。
それが実現すれば、新型肺炎が終わった暁には、地方自治の確立を称える金字塔が日本の政治史に残り、燦然と輝きつづけるだろう。
(2020.06.01)
(前回 新型肺炎第2波への備え)
(前々回 国民に犠牲を強いる新型肺炎対策)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
【特殊報】コムギ縞萎縮病 県内で数十年ぶりに確認 愛知県2025年4月18日
-
備蓄米 卸売業者の玄米販売も可能に 農水省2025年4月18日
-
主食用МA米の拡大国産米に影響 閣議了解と整合せず 江藤農相2025年4月18日
-
米産業のイノベーション競う 石川の「ひゃくまん穀」、秋田の「サキホコレ」もPR お米未来展2025年4月18日
-
「5%の賃上げ」広がりどこまで 2025年春闘〝後半戦〟へ 農産物価格にも影響か2025年4月18日
-
(431)不安定化の波及効果【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年4月18日
-
JA全農えひめ 直販ショップで「えひめ100みかんいよかん混合」などの飲料や柑橘、「アスパラ」など販売2025年4月18日
-
商品の力で産地応援 「ニッポンエール」詰合せ JA全農2025年4月18日
-
地元産小粒大豆を原料に 直営工場で風味豊かな「やさと納豆」生産 JAやさと2025年4月18日
-
冬に咲く可憐な「啓翁桜」 日本一の産地から JAやまがた2025年4月18日
-
農林中金が使⽤するメールシステムに不正アクセス 第三者によるサイバー攻撃2025年4月18日
-
農水省「地域の食品産業ビジネス創出プロジェクト事業」23日まで申請受付 船井総研2025年4月18日
-
日本初のバイオ炭カンファレンス「GLOBAL BIOCHAR EXCHANGE 2025」に協賛 兼松2025年4月18日
-
森林価値の最大化に貢献 ISFCに加盟 日本製紙2025年4月18日
-
つくば市の農福連携「ごきげんファーム」平飼い卵のパッケージをリニューアル発売2025年4月18日
-
日清製粉とホクレンが業務提携を締結 北海道産小麦の安定供給・調達へ2025年4月18日
-
森林再生プロジェクト「Present Tree」20周年で新提案 企業向けに祝花代わりの植樹を 認定NPO法人環境リレーションズ研究所2025年4月18日
-
「バイオものづくり」のバッカス・バイオイノベーションへ出資 日本曹達2025年4月18日
-
ミャンマー地震被災者支援として500万円を寄付 建機や物資も提供 クボタ2025年4月18日
-
木南晴夏プロデュース「キナミのパン宅配便」京都市「Bread Tsukune」と提携2025年4月18日