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堆肥、保湿材、燃料としての稲わら【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第101回2020年6月4日

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【酒井惇一・東北大学名誉教授】

稲わらは、これまで述べたようなわら工品の原料としてばかりではなく、さまざまな用途で利用された。まず、作物の生産に不可欠な養分の補給材料としての堆肥の原料として使われた。山野草なども堆肥にしたが、雑草の種子などが含まれていない稲わらは堆肥の最良の原料だった。田んぼや畑の一か所に積み上げた稲わらに、腐熟した人糞尿をふりかけ、あるいは次に述べる厩肥を混ぜ合わせたりして良質の堆肥とし、畑や田んぼに撒き、すき込んで土壌改良、養分の補給、地力の増進を図ったのである(注1)。

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また、稲わらは自分の家で飼育している役牛馬の重要な飼料として用いられた。

私の生家の場合は役牛だったが、前にも述べたように、稲わらを主食としていた。稲わらを「押し切り」で3センチほどに細かく切り刻み、それとこぬか(小糠)、米の研ぎ汁をかいば桶に入れ、それを棒でかき混ぜて食べさせる。ときどきはみそ汁やおかずの残りなどの残飯をエサに混ぜて食べさせる(注2)。なお、生家の場合野菜作りを中心にしていたので、大量に出る野菜くずも食べさせていた。

稲わらはまた、役牛や山羊の畜舎の敷きわらとしても利用された。その結果として出てくる汚れた敷きわらと糞尿は、厩肥として堆肥とともに田畑に散布された(注2)が、厩肥は養分があるので地力の消耗しやすい畑に主に投入していた。

さらに稲わらは、保温・保湿・雑草抑制のための被覆材料としてそのままの形で用いられた。野菜等の幼苗をわらで覆って保護するなどはその典型だった。

キュウリやトマトの場合には一畝ごとに保湿と雑草抑制、土壌の柔軟性保持のために稲わらが敷かれた(管理や収穫の作業はその稲藁が敷かれていない畝間を歩いてなされる)。そしてその敷きわらはそのまま放置され、やがて堆肥としてすき込まれた。まさに稲わらは畑作を支えるものでもあったのである。

それだけではなかった。わらは煮炊きの燃料にもなり、その灰は田畑に肥料として散布され、生活においてもさまざまな部面で利用された。

これまた前に述べたのだが(注3)、私の生家では、ご飯は稲わらで炊いていた。そしてそのご飯炊きは幼い子どもの仕事だった。かまどの前に座り、祖母か母にくるっとまるめてもらったわらの束を一つずつかまどの中に入れ、燃え終わるとまた入れるを繰り返す。沸騰してくると、わら入れをやめる。真っ赤になったわらの燃えかすが残り火となり、まさに「初めちょろちょろ、中ぱっぱ、赤子泣くとも蓋とるな」で、いい味に炊きあげる。

なお、籾殻を燃料にする糠窯(ぬかがま)もあり、この籾殻を小屋から石油の空き缶に入れて運び、円筒形をした窯をいっぱいにするのも子どもの仕事だった。

この籾殻の灰はその形のまま真っ黒になっており、それはそのまま叺に入れて保存しておいて、春近くになるとまだ雪一面の田んぼに持って行き、苗代の田んぼの雪の上に撒く。こうして雪解けを早めると同時に灰分の供給を図るわけだ。一面の銀世界がちょっと汚れるが、長い冬。雪に飽きていた子どもたちにとってこの黒はうれしい春の知らせだった。

以上述べてきたように、稲は、主食である米を人間に供給するばかりでなく、稲わらをも生産・生活資材として供給し、日本人の生産と生活を支えてきた。まさに稲は、日本の文化の基礎をなしてきたのであり、日本の文化は稲の文化であり、「米の文化」+「稲わらの文化」であったのである。

だからこそ稲わらが注連縄(しめなわ)などとして神々への祈りのさいに使われたのではなかろうか。

そして日本人はさまざまなわらの利用方法を開発してきたと同時に、わら加工の効率化のための道具の開発に取り組み、さらには機械化まで進めてきた。縄綯い機がその典型だった。

 
注1.2019年7月11日掲載「天秤棒で担いで運ぶ作業」参照。
注2.2019年5月16日掲載「家畜の世話の手伝い」参照。
注3.2019年4月11日掲載「子どもの家事手伝い」参照。

酒井惇一(東北大学名誉教授)のコラム【昔の農村・今の世の中】

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