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連続ストップ安でも買いが入らない異常事態【熊野孝文・米マーケット情報】2020年6月16日

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【熊野孝文・米マーケット情報】

 
先週末、大阪堂島商品取引所(以下堂島取)から「(コメ先物市場の価格が)一向に下げ止まらないが、現物市場はどうなっているのか?」と言う問い合わせがあった。東京コメの当限6月限は先週始め1万2300円であったが、ストップ安の連続で週末には1万1700円にまで値下がりした。

1万2000円を割り込んでも買いが入らない。堂島取でなくてもこの異変の原因を知りたくなる。現物市場の動向に触れる前にコメ先物市場を活用してみたい人のために先物市場で現物を手当てするのにどのくらいの経費が必要なのか示したい。先物市場で売り買いするには堂島取の会員である商品取引員に売り買い玉を委託しなければならない。その際、口座を開いて委託証拠金を納付する。なぜ委託証拠金が必要なのかと言うと、先物市場では毎日その日の値動きに応じて値洗い(清算)しているためで、100%代金の取っぱぐれが無いようにするための措置である。口座を開いて新規に6月限を1万1700円で買えたとすると、期日納会の6月20日に現物が入手出来る。この際、取引員への委託手数料や取引所の指定倉庫から引き出す際の出庫料金等が60キロ当たり約500円かかる。約と表現したのは取引員の委託手数料は自由化されており、取引員によって額が違う事や指定倉庫の中には、良く利用してくれる当業者に対しては入出庫料を値引くところもあるなど一律ではないからである。

それらを念頭に置くと今、東京コメで6月限を1万1700円で買うとこれに諸経費が500円加算され、入手コストは1万2200円になる。そのコメを現物市場で1万3000円で販売出来れば1俵800円の儲けになる。1ヶ月ほど前であればそうした計算も成り立つが、現在はそうした計算が成り立たない。

11日に開催された日本コメ市場のFAX取引会。当日参加者コメ卸に送られて来た20ページものFAXには150産地9万俵もの売り希望が記載されていた。一件当たりのロットも大きく1000俵から2000俵とういうのはざらで、中には6000俵というものもあった。当日は約1万俵が成約したが、成約した中には福島会津坂下コシヒカリ1等東京着1万2750円と言うものもあった。会津コシヒカリがこの値段なのだから他の中間クラスの銘柄の価格は推して知るべしで、市中では1万2000円以下の玉もある。先物市場において1万1700円で現受けしても、現物市場で1万2000円以上で売れる保証はないというのが現在の状況。それにしても暴落と言えるほどの急激な市中相場の値下がりはどのような要因で起きたのか? 引き金になったのはコロナ禍の外食、中食業界の急激なコメ需要減退である。

外食・中食業界ではコロナ禍の影響について「外出自粛の中での時短営業により客数が大幅に減少、4月の外食全体の売上は前年比60.4%と、当調査開始以来最大の下げ幅となった。なかでもパブは前年比4.1%、居酒屋は9.7%と一桁台、またディナーレストランは16.0%、喫茶は27.6%とそれぞれ壊滅的な打撃を受けた」(日本フードサービス協会)、「(1)学校給食は、3月、4月とも10%以下でほぼゼロと言える。学校給食を除いた現状は3月度9割、4月度8割と炊飯量が減少している。なお、業態別では、飲食店、旅館ホテル関係は、3月度は60%台であったが、4月度は飲食店41%、旅館ホテルは26%と激減した。(2)スーパーの売上は前年対比同等との報道もあるが、今回の調査では、炊飯協会全体では、学校給食を除くと4月度は18%減と2割近く減となっている。(3)炊飯業界の利益率は3%程度で、前年比約2割減では会員の経営はすでに米価5年連続高騰など原価アップ、人件費・運賃のアップなどで会員の経営は極めて厳しい現状であったので、この状況が長引けば企業存続が危ぶまれる危機的状況と言える。(4)今回のコロナ禍でも食品業界は、事業継続が求められていたが、補助金が支払われる対象となるのは、納入先が学校給食、飲食店、旅館等のみに納めているケースで、会員社の数社に留まる。九割以上の会員は幅広い業態に納入しており、補助金の対象には入っていないという厳しい現状」(日本炊飯協会)。

まさに本来あるべき外食・中食のコメ需要が蒸発したような状況になっている。その分の需要が家庭内需要としての巣ごもり需要に振り替わっていれば良いのだが、そうなっていないところにコメの需要構造に大きな危機がある。その危機の本質を突き詰めると今のコメ政策ではそうならない仕組みになっているからである。コロナ禍はその現実をコメ業界に見せつけたと言える。

  
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】

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