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EBPMがPBEMに?~種苗もコロナも、データに基づいた議論の重要性~【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】2020年6月18日

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【鈴木宣弘・東京大学教授】

政策決定の基本はEBPM=Evidence-Based Policy Making(証拠に基づいた政策立案)といわれるが、PBEM=Policy-Based Evidence Making(政策に基づいた証拠づくり)になってはいけない(生源寺眞一教授)。政策の方向性が妥当かどうかを証拠データに基づいて検証して決めるEBPMでなく、政策の方向性が大きく打ち出されて、それを進めるために強引に証拠データがつくられてしまうPBEMの傾向が強まると、日本の将来の経済社会のありようを誤った方向に導きかねない。

例えば、TPP(環太平洋連携協定)などの影響試算では、政権としてTPPを強力に推進すると決めたので、GDP効果がもっとあるように見せるべきとの要請に応じて、GDP増加が突如4倍にされ、農林水産業の打撃は1/20に縮小された。こんな「改竄」「捏造」を本当にやりたいと思っている役人がいるわけがないが、彼らはやらざるを得ない。深く同情する。

けっして捏造ではなくとも、どういうふうにデータを切り取るかで方向性が変わる場合もあり、なかなか難しい。例えば、種苗法改定にあたって、無断自家採種が禁止されるのは登録品種のみで、一般品種(在来種、品種登録されたことがない品種、品種登録期間が切れた品種)には及ばない。一般品種の割合は、コメ84%、みかん98%、りんご96%、ぶどう91%、ばれいしょ90%、野菜91%となっている。これが「公式」説明である。

ただし、栽培実績のある品種に限ると、コメの場合、登録品種の割合は全国平均で64%(栽培面積でも33%)と高く、地域別に見ると、青森県99%、北海道88%、宮城県15%など、地域差も大きいことを印鑰智哉氏が指摘している。元データは、米の検査量は農水省のhttps://www.maff.go.jp/j/seisan/syoryu/kensa/kome/の2018年の確定値。
各都道府県で栽培されている主な品種の登録品種か非登録品種かについては農水省のhttps://www.maff.go.jp/j/kanbo/tizai/brand/b_syokubut/hinshu.html

「農民連ブックレット」2017年5月(鈴木宣弘・北出俊昭・久野秀二・紙智子・真嶋良孝・湯川喜朗著)図1)「農民連ブックレット」2017年5月(鈴木宣弘・北出俊昭・久野秀二・紙智子・真嶋良孝・湯川喜朗著)

また、種子法(公共の種の開発・提供事業)の廃止が種苗価格に影響する可能性についての議論に関しても、新たなデータを追加しておきたい。米国で、公共種子や自家採種が主流の小麦の種子価格の値上がりが低く抑えられていることは、右の図などで紹介されてきた。

 

一方、日本の種子価格の推移については、1951年から2018年では右下の表1のとおりの上昇となっている(印鑰智哉氏)。やはり、民間の種が主流の野菜の種の価格上昇率に比べて、公共種子事業が維持されてきたコメや麦は低く抑えられてきたことがわかる。データは、農水省https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/noubukka/

 

農水省調べ表1

なお、データそのものを作らない場合もある。「日本で新型肺炎の感染者や死者が少ないのはなぜか」との議論があるが、ナンセンスに思われる。議論の前提が間違っている。日本は検査を極めて抑制しているので、感染者と死者がどれだけいるか、正確にはわからないのであって、少ないかどうかが信頼性のあるデータで検証されていないからである。データがなくては議論ができない。死者数については、例年の同時期と比較した「超過死亡数」で、ある程度推定できる程度である。

一方、クルーズ船(ダイヤモンド・プリンセス)の船内は「日本の数字にカウントしなければよい」として、半ば放置し、下船させなかったとの指摘さえあるが、感染率が約20%(712人/3700人)という異常な事態を引き起こした。こちらはデータがある。この感染率は、集団感染を放置して低賃金・長時間労働をさせていたとして大問題になった米国の食肉加工場の感染率に近い数字である。

このデータに基づけば、神戸大学の岩田教授がクルーズ船内の悲惨な措置を暴露し、政府は処置が「適切」だったと反論したが、適切なわけがないことは、「20%の感染率」だけで如実に物語っている。重要なことは、「核心をついた数字の証拠は最も雄弁で、どんな反論にも負けない」ということである。

客観的データに基づく冷静な議論を心がけたい。


 
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