新ブランド米の宣伝広告費に異議を示した生産者【熊野孝文・米マーケット情報】2020年7月21日

首都圏にある農協の中には組合員の預金高が1兆円を超える桁違いに大きな農協もある。以前、その農協が新たに米穀課を設立するというので話を聞きに行ったことがある。そこで聞いた話がまた桁違いだった。なんと田んぼ1反の値段が400万円、バブル期には1300万円もしたという。さらにこの農協管内には160万人が住んでおり、地の利を生かすため地産地消を推進、管内に13ヵ所も直売所を構えていた。その中の数カ所に行ってみたが売り場面積は食品スーパーより広かった。
その農協の米穀課長から久しぶりに携帯に連絡があった。2年産米の集荷販売のための会議を控え、コメの情勢を知りたいとのこと。聞くと集荷予定量の75%は販売の目途が立っているが25%は県外に販売しなくてならず、そのために価格動向を知りたいという。地方のコメ産地農協が聞くとなんともうらやましい限りだろうが、25%とはいえ売れる価格で集荷しなければリスクを負う。リスクを回避する方策としては、その地区で生産されるコメをブランド化するのも一つで、この農協もそうした取り組みを行っている。ただし、ブランド化するのは容易なことではない。近年ブランド化に成功したコメと言えば北海道のゆめぴりかと山形のつや姫ぐらいで、現在、ほとんどの産地銘柄が値崩れしている中にあってもかろうじて価格が維持されている。
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この例に倣って各産地とも新品種を投入してブランド化を目指している。しかしながらブランドになり得るコメはごく一部であり、ほとんどの産地の新品種が売れ残っていると言うのが実態。そうした厳しい現実がありながら自産地のコメをブランド化したいという意欲は止まらない。先週も関東と東北の2ヵ所でブランド化に関係する会合が開催された。
関東で開催された会合は文字通りブランド米推進協議会が主催した会合であったが、そこで出た話が深刻だった。この産地も他県同様、自産地のオリジナル品種を育種、その品種をブランド化するという目標を掲げていたのだが、2年産ではその品種も含め飼料用米にするよう行政側から求められたという。これまでなかなか一般に認知されなかった品種であったにせよ、それを育種した研究者やブランド化のために厳しい栽培基準を守りながら栽培して来た生産者のことを考えるとやりきれない気持ちになった。それだけではなく、現在、この産地ではカメムシが多発しており、出席者から「このままではまた日本一品質の悪いコメと言われる」と早急に防除するよう行政側に求める発言があった。そのカメムシ発生多発の原因が防除しない飼料用米が温床になっているというのだから2重にブランド化を阻害していることになる。
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会合の後、議員も参加した懇親会の席でブランド化について意見を求められたので、率直に「第一にマーケットを直視すべきだ」と答えた。マーケットを見ずにテレビCMを打てばブランド米になると勘違いしている産地が多いように思えてならないからである。マーケットを見て、次に売れる価格を設定することで、マーケットを無視した価格を設定しても絵に描いた餅になるだけである。
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東北で開催された会合でも出席した生産者から厳しい意見が出た。この会合は農協が主催した会合で、県から今後デビューする新品種をブランド米にすべく、その方針が説明された。方針の目玉は、この新品種を栽培するために「生産者団体」を組織化するという事で、すでに県が作付奨励地区まで設定している。生産者団体の要件は(1)団体の規約が定められていること(2)新品種の生産者が3名以上、かつ、新品種の生産面積が3年以内に10ha以上となる計画を有していること(3)新品種の具体的な販売計画(栽培方法別の生産量、販売先等)を有していることーと言う厳しい要件が課せられている。生産者の要件としては9項目が示され、その中に「ブランド化に係る各種取り組みに協力すること」とし、CM、プロモーション経費の一部負担として10アール当たり3000円から4000円の拠出を求められている。10haであれば30万円から40万円の拠出金になるので、出席した生産者からこの負担金について異議を唱える発言があった。
これまでブランド化を推進する各産地では毎年億単位の宣伝広告費が投入されているが、この生産者でなくてもその費用対効果を明らかにすべきで、どのような運用をしてきたのか示さなければ、売れなかったから飼料用米に回しますでは育種者も生産者も浮かばれない。
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(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】
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