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アジア全体での食料安全保障という考え方【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】2020年7月23日

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【鈴木宣弘・東京大学教授】

主要穀物などの輸出規制が簡単に起こりうるということが、コロナ・ショックでも明白になった。輸出規制を規制しようとしても、輸出規制は国民の命を守る正当な権利であり、抑制は困難である。日本政府は、以前から輸出規制を抑制するための国際取決めの強化にこだわっていたが、いざというときに、自国民を後回しにして、他国に売ってくれる国はないから、実効性はないと筆者は指摘していた。現に、食料の輸出制限を行う場合の条件として、1993年のウルグアイ・ラウンド農業協定に日本提案として盛り込まれたのが、食料安全保障への配慮と通報であるが、それらは2008年や今回の輸出規制の動きに対する何の歯止めにもなっていない。しかし、日本が主導する仕組みで期待されるものが一つある。「ASEAN+3コメ備蓄スキーム」である。

これはアジア全体での食料安全保障システムの提案である。コロナ・ショックで輸出規制の懸念がまた高まったが、2008年には、世界的な穀物価格高騰が発生し、トウモロコシ、大豆、小麦が過去最高値を更新しただけでなく、コメについても、インド、ベトナム、インドネシア、中国などがコメの輸出制限をするなどの影響で、タイ米が2008年4月に1トン当たり1000ドルを突破し、2008年初めの値に比べて3倍近くに上がり、フィリピンやハイチなどの穀物輸入国で死者が出たり、暴動が起きたりなど、深刻な混乱が生じた。コメについては、高騰した小麦やトウモロコシからの代替需要でコメ価格も上昇するのを懸念したコメ生産、輸出国が、国外へのコメ流出を抑制しようとしたため、世界的には在庫はあるのに、国際市場への出回り量が減少し、国際価格が高騰した。

世界的な穀物の価格高騰と不足で貧しい途上国で暴動が発生するまでに至った事態を受け、2008年洞爺湖サミットにおいて、途上国の穀物増産への支援、穀物の国際備蓄体制の整備が提唱された。2008年の穀物価格高騰時、我が国がフィリピンに30万トンのミニマム・アクセス米の放出を表明した結果(実際には行われなかったが)、2008年4月に1000ドル/トンを超えた米価が800ドル/トンまで急速に下がった。

輸出規制が国際コメ市場に与える影響の大きいことと、それに対して備蓄放出が価格を下げることに大きな効果があることは、すでに筆者の2001年の試算でも検証されている。この検証は、我が国のWTO提案として出された国際穀物備蓄構想の具体化としてスタートした東アジアコメ備蓄システムの構築事業の開始のための試算であった。食料価格高騰により、この提案の意義が再確認されたのである。

そのような背景の下、国際備蓄の枠組みとして具体化されたのが、「アセアン+3緊急米備蓄(APTERR)」である。APTERRは、東アジア地域(アセアン10ヶ国、日本、中国、韓国)における食料安全保障の強化と貧困の撲滅を目的とし、大規模災害時などの緊急事態に備えるためのコメの備蓄制度である。

2002年10月のASEAN+3農林大臣会合における決定を受けて、2004年4月から試験事業が開始された。その後、この試験事業を恒久的なスキームであるAPTERRに移行させるための協定交渉が開始され、2010年2月に試験事業を終了し、10月にインドネシア・ジャカルタにおいて開催されたASEAN+3農林大臣会合において「APTERR協定」の採択、署名が行われ、2012年7月に協定は発効された。

APTERR は、現物(現金)備蓄と申告備蓄から構成され、APTERR 協定の加盟国は、各国が通常保有する在庫のうち緊急時に放出可能な数量を一定量申告(イヤマーク)する。現物備蓄(現金備蓄)は緊急時の初期対応として放出する。備蓄期間経過後は貧困緩和事業に活用する。より迅速に対応するため現金備蓄による放出も活用する。

これまで、日本は現物(現金)備蓄の枠組みにより ASEAN6か国(フィリピン、ラオス、インドネシア、タイ、ミャンマー及びカンボジア)に対し、約3000トン(約20万ドル)の緊急支援を実施している。また、各国のイヤマーク数量は日本が25万トン、中国が30万トン、韓国が5万トン、アセアン諸国が8.7万トンである。

このようなスキームは、輸出規制が生じた場合のコメ価格高騰とコメ不足を抑制するだけでなく、輸出規制そのものを生じにくくさせる効果が期待されるので、各国が基礎食料の自給率を高める努力を強化するのと同時に、このようなアジア全体での食料安全保障を備蓄運営によって補完する仕組みの拡充強化が一つの方向性として注目されるべきと思われる。


 
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