おっさんだらけは、だらけるよ【小松泰信・地方の眼力】2020年8月5日
7月には、全日本年金者組合・岡山県本部第10回女性部総会で「健康に生活するために、今私達にできること」について、8月には、JA岡山女性部学習会では「持続的な“JAと地域社会”づくりとJA女性部の役割」について講演した。女性ならではの明るく熱心な聴講姿勢には、敬意を表するばかりである。
◆202030をギブアップ
「社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度になるよう期待する」こと、いわゆる"202030(にいまるにいまるさんまる)"を政府目標とすることを、2003年6月に男女共同参画推進本部が決定した。本部長は時の首相、小泉純一郎氏。
安倍晋三首相も「すべての女性が輝く社会づくり」を唱え、女性の活躍推進は第2次安倍内閣下における最重要施策のひとつ。
しかし2020年7月に、男女共同参画会議の第5次基本計画策定専門調査会は、「第5次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方(素案)」において、202030ギブアップを宣言した。かわりに示されたのが、「指導的地位に占める女性の割合が2020年代の可能な限り早期に30%程度となるよう目指して取組を進める」ことである。
◆リップサービスだけの「女性活躍推進」
7月22日以降、この問題を社説で取り上げているのは地方紙のみ。全国紙は取り上げていない。
中国新聞(7月25日付)は、「女性活躍推進」が看板政策であるにもかかわらず、現閣僚に女性が3人しかいないことから、「看板倒れだと批判されても仕方あるまい」とする。
「意思決定の場が男性ばかりに偏れば、長年の慣習などが影響し、女性を含む多様な人が暮らす社会の実情に沿った政策や方針が打ち出しにくい。社会的弱者に負担を強いることにもつながりかねない。指導的地位に女性の登用が必要なのは、そうした理由からである」とした上で、「コロナ対策で、台湾やニュージーランド、ドイツなどの女性首脳の手腕が注目されたのも、無関係ではあるまい」として、女性登用の必要性を強調する。
当然、「指導的立場に就く層に、女性の人材が十分ではなかったのが要因だ」とする、当事者意識ゼロの世耕弘成自民党参院幹事長の発言には失望している。
最後に、政府に対して、目標未達の要因分析に基づいた実効性のある施策の提言と、その遂行を求めている。
琉球新報(7月26日付)も,世耕氏の発言を「未達成の責任を女性に押しつけている」と批判する。さらに、教育と生活の現場に大混乱を引き起こした全国一斉の休校要請を例に挙げ、「意志決定の場に女性が圧倒的に少ない」ために、「政権に生活者の目線が薄い」と、手厳しい。
◆避けられないクオータ制の導入
高知新聞(7月27日付)は、「目標の先送りを仕切り直し、女性登用を進めていくためには、国民が強く意識できるような明確な目標を掲げ、企業や自治体などに努力を促す必要がある」として、世界130カ国以上の国会が導入している「クオータ制」(候補者や議席に占める女性の割合を一定以上にする仕組み)の導入を提言する。
また、今回の素案で、地方において「地域に性差への偏見が根強く存在している」ことが指摘されたことを受け、「『性差の偏見』は女性個人を苦しめるばかりか、地域社会の弱体化も招いてしまう」として、企業や自治体などが連携し、女性が働きやすい環境を整備することを求めている。
そして、「男性の育休取得率を向上させ、今は女性に重い家事・育児の負担を男女で公平に分かち合う努力」を惜しまず、「性差の偏見」に起因する「職場や家庭内の不合理を解消し、女性がリーダーになることをためらわない社会」づくりを提言している。
信濃毎日新聞(7月27日付)は、安倍政権が成長戦略の柱と位置づける「女性活躍」も、「政策の軸足は労働力不足を補う経済対策にあり、賃金格差をはじめ働く場での不平等の是正はなおざりだ。『家庭を守るのは女性』といった意識も根強く、家事や育児、介護の負担は依然、女性に偏っている」と、底の浅さを指摘する。
同紙も「掛け声をかけて自主的な取り組みに任せていても、女性が置かれた状況は大きく変わらない」として、「クオータ制」の導入を提言する。
当然想定される、経済界からだされる「逆差別」発言に対しては、「女性への構造的な差別をなくしていくには、制度の後ろ盾が欠かせない」と、毅然とした姿勢を示している。
神戸新聞(7月28日)は、安倍晋三首相が「女性活躍」を成長戦略の柱に据え、かつて海外投資家に「女性が立ち上がれば日本経済は成長する」と投資を呼びかけたことをとりあげ、「派手なかけ声とは裏腹に、本気度が見えない」と、図星の指摘。
「努力に任せているだけでは女性登用は進まない」として、同紙も「クオータ制」の導入を提言する。
さらに「性差への偏見が根強い地域ほど若い女性が都市部に出ていく」との指摘を取り上げ、「人口流出に悩む地域こそ、男女格差の是正は急務といえる。自治体トップの姿勢も問われている」と、重い宿題を課している。
◆内なる敵と戦えJA女性部
「男女格差の是正」は、JAグループにも課せられた重い課題である。
斎藤美奈子氏(文芸評論家)は、東京新聞(7月29日付)の「本音のコラム」で、人気番組『半沢直樹』、『ハケンの品格』を俎上にあげ、「おっさんだらけの景色を変だと感じるセンスが育たない限り、現状は変わらない。あらゆる場面で、いやみったらしく女性の数を数えてやる!」と、ぶった切る。
自らを典型的「おっさん」と自覚した上で、いやみったらしく女性の数を数えると、JAグループも「おっさんだらけの組織」となる。JAの役員は「女性に見捨てられたらJAグループは終わりです」と、しおらしく語るものの、いざ女性たちがJA運営への参画を要求したら、やれない理由、やらない理由で倍返し。
今、JA女性部に突きつけられている選択肢は、JA女性組織綱領に謳う「わたしたちは、女性の声をJA運動に反映するために、参加・参画を進め、JA運動を実践します」を錦の御旗として、クオータ制の導入などで「性差の偏見」や「男女格差」の解消に向けて戦うか、それともこれまでのように泣寝入るのか、のいずれかである。
「地方の眼力」なめんなよ
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