(192)シャネルの5番・禁酒法とレーズン・大豆【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2020年8月7日
「シャネルの5番」と言えば、1950年代にはマリリン・モンローにより有名になり、その後もニコール・キッドマンなどのイメージで有名です。この「シャネルの5番」、実は今年で100歳になります。公式発表は1921年5月5日でしたが、試作品が出来たのが1920年…ということで本日は雑談です。
「シャネル」の歴史を調べてみると非常に興味深いが、それはまたの機会にして、今回は100年前の1920年を少し変わった視点から振り返ってみたい。
平均寿命が延びた現代では80歳はおろか90歳を超えても矍鑠としている高齢者が多いが、彼らが生まれた少し前、1920年の米国では年明け早々に酒類販売禁止法、いわゆる禁酒法が施行された。禁酒法の時代にはいろいろなことが起こったが、簡単に言えば、公にアルコールが飲めなくなったため、コーヒーやその他のドリンクの需要が大きく伸びたこと、その裏で不正販売や密造酒の形で依然としてアルコールの消費が継続していたことなどは、よく知られている。
この年、米国の人口はようやく1億人の大台を超えている。国土は同じだが人口は現在の3分の1、現代日本より少ないとなれば、田舎はのどかな時代であったのであろう。
禁酒法の影響を受けた農家のグループの中にはカリフォルニアのぶどう農家達がいる。ワインやブランデー用として使われていたぶどうをどうするか、政策により、強制的に用途変換あるいは新規市場開拓を迫られたのである。
結論を言えば、ぶどうは普通に食卓で食べるだけでなく、干しぶどうの製法が大きく改善され、有名なサンメード(SUN-MAID)・レーズン(Sun-Maid Growers of Californiaはカリフォルニアの農協である。農協自体の設立は1912年。)として全米はおろか、世界中に広がることとなる。年配の読者の中には、スーパーレトロなマッチ箱スタイルのサンメード・レーズンの赤い箱を覚えている方も多いのではないかと思う。筆者も子供の頃、食べたことがあるし、今でもラム・レーズンのアイスクリームを食べるたびに思い出す。現在でもサンメード・レーズンは通販で販売されているが、箱のデザインは当時の雰囲気そのままである。
カリフォルニアのレーズン産業の発展は、禁酒法の落とし子のようなものと考えると興味深い。まさに、「必要は発明の母」、禁酒法は悪法として名高いが、それでも環境変化に対応しなければならなかったぶどう農家の知恵と努力、そして技術が新しい地平線を切り開いたのである。
ところで、同じ1920年、米国のトウモロコシの生産量はどのくらいであったか。農務省の統計を見ると、26億9509万ブッシェル、単収29.9ブッシェル/エーカーである。2020年7月の需給見通しでは、2020/21年のトウモロコシ生産量は150億ブッシェル、単収は178.5ブッシェル/エーカーである。100年間に生産量は5.6倍、単収は6.0倍に伸びたことになる。
大豆はどうか。手元の資料では1920年の数字が無く、1924年で代替すると、生産量は495万ブッシェル、単収11ブッシェル/エーカーである。これが2020/21年には41億3500万ブッシェル、単収49.8ブッシェル/エーカーとなっている。同じ比較をすれば、生産量で835倍、単収で4.5倍である。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
眼を疑うような数字だが、米国農務省の数字はこのとおりである。ちなみに1924年の大豆の収穫面積は45万エーカーであり、これが2020/21年には8300万エーカーと184倍になっている。
トウモロコシは100年前と収穫面積がほとんど変わらず、生産量の増加はほぼ単収の増加のみで達成してきたが、大豆は収穫面積が激増している。1924年当時は作付けした大豆の4分の1程度しか収穫されていなかったようだ。作付面積157万エーカーに対し、収穫面積45万エーカーという記録からそれがうかがえる。大豆の作付面積と収穫面積が概ね等しくなるのは1950年代以降である。面積の増加と単収の増加の相乗効果である。
* * *
そういえば、野球ファンには有名なベーブ・ルースがニューヨーク・ヤンキースと契約したのもちょうど100年前の1920年のようです。日本は大正時代、普通選挙運動が盛んな頃で、この年に第1回国勢調査が行われたとの記録があります。
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