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お米好きの人に活路を見出す米穀小売店【熊野孝文・米マーケット情報】2020年8月11日

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【(株)米穀新聞社記者・熊野孝文】

8月21日に千葉市で開催される予定であった新米取引会が中止になった。この取引会は例年この時期に行われており、新米の価格動向を知るうえで全国から注目される取引会だが、コロナ禍が拡大している現状では主催者としてもやむを得ない決定だった。

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留まることのないコロナ禍で苦境に陥っているコメ業者の中で最も深刻なのがいわゆる業務用米を主体に扱っている米穀小売店で、最悪の時期を脱したかと思われたのも束の間で、第2波により再び売れ行きに陰りが出ている。業務用米に特化している都心の小売店の中には売り上げが半減したところもあり、そうした小売店が今一番頭を悩ませていることが売り先を失ったコメの在庫をどう処分するかにある。こうした小売店は扱い量が多い分、産地農協と直接契約している玉もある。産地農協としても新米の収穫時期が近づき、いつまでも元年産を倉庫に保管しているわけにもいかず、販売先の業務用小売店に引取り時期を聞いてくる。遅くとも9月末までに引き取って欲しいのだが、小売店側としては現状ではそれは無理な相談で、なんとか引取り期限を先延ばして欲しいと言うしかない。

この引取り期限と倉庫の確保が今コメ業界で大きな問題になっている。コメ卸や大手小売店にとっては引取り期限を延長してもらう分の保管経費に加え、新米が安値でスタートした場合、新古逆ザヤによる在庫差損が発生する。その差損がどの程度のものかと言うと「10億から20億円はあっという間だ」(大手卸)とのことで、まさに経営継続を左右するほどの差損を抱えることになりかねない。経営規模の大小によって差損の額は違うが、経営を継続するという意味で大きな負担になるという点においては同じである。そうした負担をいかに軽減して経営を持続させようと今まさに戦っている小売店に伺い代表者に話を聞いてみた。

この米穀小売店は優良経営食品小売全国コンクールで食料産業局長賞を受賞するぐらいしっかりした経営をしているのだが、それでもコロナ禍で売り上げが急減、持続化給付金の支給を受けなければならないほどの苦境に陥った。その大きな原因は、販売比率が業務用が6割で一般消費者向けは4割と言う比率で、6割部分がほぼゼロになってしまったことにある。業務用米といってもこの小売店の販売先はミシュランガイドの3つ星と言う店や、ごはんにこだわりNHKの特集番組にも取り上げられるほどの店もあり、納入するコメは低価格の業務用米とは違い、こだわったコメばかりで販売単価もキロ500円以下のものはない。そうしたコメが行き場を失ったのだからまさに危機的な状況に陥った。そこで店主が取った対策がこだわった業務用米銘柄を幾分安く一般消費者に提供するという「おうちごはん応援米」キャンペーン。キャンペーンは毎月販売するコメの銘柄を変えており、4月に第一弾がスタート、今月第4弾目を実施している。

ユニークなのは同店で一度コメを購入すると2回目に訪れた際、前回どんなコメをいくら買ったか分かるようにしていること。それにはちょっとした工夫がしてある。同店のコメは全て玄米からの量り売りで、顧客の好みに応じて分搗き精米する。分搗きは、玄米食を好む人用に表面を軽く研削した「粗挽玄米」と言ったものから7分、5分、3分まであり、さらに品種の食味や食感の特性によって7グループに区分けしてある。購入した人には「お米一番」と大書したクラフト紙袋を提供、そこに購入したコメの銘柄を書いたシールを張り付ける。5回購入すると1合をプレゼントするという販促スタイルを取っている。袋は5キロから3キロ、2キロ、1キロ、500グラムまであり、中には500グラムを三種類の違った銘柄を購入する人もいるという。

こうした売り方がお米好きにはウケており、20歳台から40歳台の女性だけではなく、リュックを背負った若い男性も美味しいコメを求めて遠方から買いに来る。消費者への告知はネットを使った動画配信を行っているほか、自社の最寄り駅が総武線錦糸町駅であるため総武線沿線の住民に配布されている情報紙におうちごはん応援米キャンペーンの広告を毎月出すようにした。こうした告知効果があって店舗売りが増加したという。まだまだ業務用で失った売り上げを回復するまでには至っていないが、家庭でご飯を炊いて食べる人が増えたこともあってかキャンペーンに手ごたえを感じている。何よりも代表が嬉しかったのは2度目に買いに来る人が「他で買ったお米よりすごく美味しかった」と言ってくれたことで、まだまだお米好きの人が多くいたことを実感することが出来たことにある。


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