修身・金次郎の教えた勤倹貯蓄【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第112回2020年8月20日
ソバからもう一度話を二宮尊徳に戻させてもらうが、尊徳の幼名が金次郎だったことはたいていの方が知っている。ただしそれは私たち世代以上であり、戦前は老若男女ほとんどすべての人が知っており、尊徳の名は忘れても二宮金次郎は覚えていた。何しろ「修身」の教科書に出てくるからである。金次郎の幼少時代のことを述べて「勤勉」「孝行」「学問」という人の道を教えようとしたのである。
さらに、ほとんどの小学校の校庭に、薪を背負って歩きながら本を読んでいる1メートルくらいの高さの金次郎の銅像もしくは石像が台座の上に立っていたからもあった。どこの学校にも奉安殿(天皇・皇后の写真と勅語をおいてある頑丈で立派な建物、その前を通ったら必ず直立不動でおじぎをしなければならなかった、忘れたり等したら思いっきりぶんなぐられたものだった)があったが、それと同じように金次郎像もあったので、政府の命令でつくらされたのだろう(奉安殿のような最敬礼はしなくともよかったが)と私は長いこと考えていた。
そうなると戦後、奉安殿といっしょに金次郎の像は占領軍か政府の命令でこわされたはずである。実際に戦後あまり見かけなくなった。
と思っていたのだが、あるとき気がついた、そのまま残っている学校もけっこうあったのである。
なぜだろう、命令によりなくさせられたわけではないのだろうか、こんな疑問をもつようになったのだが、それは次のようなことだということがやがてわかった。
そもそも金次郎の像は政府の命令でつくられたのではなく、地元民や卒業生、篤志家の寄付で建てられたものだった(それを私が知ったのはかなり後だったが)。
昭和初期の世界大恐慌と凶作で疲弊する農村で「自力更生運動」が展開され、その一つとして「勤倹貯蓄」が勧められた。そのさいの模範として取りあげられたのが二宮尊徳の説く勤勉・倹約であり、とくに金次郎と呼ばれていた小さいころ薪を背負うなど家の仕事を手伝いながら本を読むなど勉強もした、それを手本にしようと1930年代に金次郎のあの像が全国の小学校に建立されたのである。政府ももちろんそれを推奨した。国家に自主的に献身・奉公する国民の育成に役立つからである。
戦後、この銅像は校庭から姿を消した。これは占領軍か政府の命令で像が撤去されたのだろう、勤倹貯蓄の勧めで戦争遂行に役立てられたのだから、と私は思っていた。しかしそうではなかった。銅像の場合は戦争末期に姿を消していた。軍需品製造のための金属製品の供出で、金次郎の銅像もお国のためということで供出させられ、なくなってしまったのである。
でも、石像は残った。しかしその一部は占領軍等がきっと禁止するだろうと地域や学校が考え、占領軍におもねって、奉安殿といっしょにこわしたところもあったようである。なお、私の通っていた小学校の石像は、敗戦直後に校舎が占領軍に接収されて兵舎になったため、占領軍の手で撤去された。
そして戦後も二宮金次郎はお手本として子どもの教材になった。勤倹貯蓄と食糧増産で復興しようと言うことからである。最初に述べた二宮尊徳とソバの話も戦後の少年週刊紙『少年タイムス』がそういう趣旨で掲載したのではなかろうか。
思い出した、戦後発行された壱圓紙幣には二宮尊徳の肖像が描かれていた。排斥されるどころか彼の勤労・倹約・勉学・尊農の精神は戦後も模範とされたのである。
だから金次郎の石像は残った。新たに建設されることはもちろんなく、修理費用がなくて撤去したところもあり、少しずつ減っては行ったが。
勤倹貯蓄があまり話題にならなくなったころ、そして交通事故が多発するようになったころ、この金次郎の像がまた問題になった。歩きながら本を読んでいたら交通事故にあってしまう、それを推奨するような像は撤去すべきだという意見が出てきたのである。それで実際に撤去されたかどうかは知らない。しかし今は金次郎の石像は珍しい存在になってきている。
やがて世の中は使い捨ての時代、勤倹貯蓄は悪、農産物は外国から安く買えばいいので日本に農業などなくともいいなど言う人さえ出てくる時代、二宮金次郎・尊徳などは時代遅れ、マスコミなどはもちろん完全無視、こうして若い人たちには忘れ去られ、話題にものぼらなくなってきた。今時の若者は名前も知らないのではなかろうか。
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