エントロピーと強い農業【リレー談話室・JAの現場から】2020年8月21日
老朽農地の更新を急げ
島根県青年組織協議会会長 草野拓志
私は島根県益田市で水稲、イチゴ、ベビーリーフの農業をしています。もともと「科学」が好きで、科学と聞くだけで引いてしまう方もいるかと思いますが、農業や生活、さまざまな現象、それを理屈や数式で表現することが科学だと思っていさます。
法則や理論の証明には難しい数式などを用いますが、すごく簡単に考えることができるものもたくさんあります。むしろ生活に身近なものばかりです。その中で「エントロピー増大の法則」(熱力学第2法則)というのがあります。物(モノ)はでき上がるまでに熱量を上げて完成を迎えます。そして「完成」と言う山の頂点を境にずるずると熱量が下がって崩壊を始めます。
身近な「ご飯」を例にこの法則を考えてみます。炊飯器で大量に熱を加えて飯を炊きあげ、茶碗に盛りつけます。ここが「ご飯」の熱量の山の頂点になります。それを放置しておくとずるずると熱量は下がりご飯は冷めていきます。次には水分がとびカチカチになり腐敗が始まります。
そしてハエが集まり、腐った飯を食べて飛んで行き、そこには茶碗だけが残ります。茶碗に盛られた暖かいご飯が完成形であるなら、そこを頂点に崩壊を始め、最終的には何もなくなります。自然の理(ことわり)と言うべきか、本当によくできたもので自然界は安定した元の状態に戻ろうとする力が常に働き続けています。全てにおいて安定した元に戻ろうと働く力、これがエントロピー増大の法則です。
農業の現場でもこの法則が見られます。ハウスや施設を建てても台風や積雪、水害によって元に戻そうという力が働き、治水事業で河川を広げても土砂が堆積し、草が生えて元の形の川がまた現れます。ほ場整備できれいに区画整備をしたところでも、完成時点を頂点に崩壊を始めます。どれだけ山を切り開いてもほったらかしにしておくと森に返ります。つまり生活を維持していくことは定期的に新たなものに更新し続けなければなりません
私は日々の情報交換のためにFacebook等を利用し全国の農家さんとつながっていますが、大型のトラクターが田んぼにはまった、畔が崩れた、増水して畑が水没した、溝掃除が大変だなど、日々いろいろな出来事が書いてあります。その中でさまざまな投稿を見ていく中で昭和の中・後期に行った、圃場場整備事業においてエントロピー増大の法則が進み、40~50年経ち、農地としてずいぶん老朽化が進んでいるということがわかりました。
もともと沼だった場所を圃場整備したところは泥状化(でいじょうか)が進み、急傾斜、傾斜地を造成して作った中山間地域は畔がずりはじめ、元に戻ろうとしています。用水路の修繕に大変な苦労している状況も見受けます。大型トラクターがはまるような圃場はもともと上層粘土、下層砕石であったものが混ざりあい、底なし沼状態に泥状化しています。
これに対する対策は粘土層と砕石層を分離し、床に硬板層の造成、また暗渠排水(寿命は20年程度)をやり直し、排水対策を行わなければなりませんが、重機や専門技術が必要なので個々の農家で対応するのは難しいと思います。また中山間地域は畔が地滑りしていたり、イノシシに崩されていたりと、区画整備を含めた圃場の整備が必要不可欠です。
農業用水路であれば水に濡れるコンクリートの寿命は40~50年です。日本の農地の至るところで更新が必要になっているのです。農業は農業者個々の自助努力ではどうにもならない部分があり、農地のインフラ整備の土台の上に健全な農業経営があるものと私は思っています。これから農地の老朽化はさらに表面化していくと思いますが、農地の効率化ばかりに目が行き、大区画は大丈夫、中山間地域は助成金があるし大丈夫ということで話が止まっています。
大区画であってもきれいに管理された中山間地域であってもパッと見た感じでは不具合はわからないのです。農家さんが個々でエントロピー増大の法則の逆らい続けている状態です。老朽化に目を向け、国債を発行してでもきちんと予算を組み、大規模な農地更新事業を行うことが必要です。強い農業生産は強い国づくりにつながるものであり、農地の更新は国土強靭化の柱だと私は確信しています。
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