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(195)「家畜アラート」こそ、必要ではないか【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2020年8月28日

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「人のモノを勝手に盗んではいけない」、これは物心ついて最初に学ぶ重要な原則の1つです。残念なことに最近、北関東を中心に家畜の窃盗が急増しているようです。家畜を守るアラート・レベルが確実に一段上昇しています。

窃盗の手口別認知件数(2019年〔左〕および2009年の対比)窃盗の手口別認知件数(2019年〔左〕および2009年の対比)
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新型コロナウイルス感染症の蔓延と世界各地の被害状況は極めて大きな影響を我々の生活に与えたが、それとは別に足元でとんでもないことが発生している。北関東ではこれまでに約700頭の牛豚が盗難被害にあったようだ(「東京スポーツ」2020年8月25日配信)。昨日も今朝(8月26日)も、生まれたばかりの仔牛を盗む複数の人間の様子が防犯カメラに収められ、テレビ・ニュースで流れていた。

手塩にかけて育てた家畜を盗まれた農家の受けた被害は、経済的にも、そして精神的にもはかり知れない。これまでこうした被害が全く無かったというわけではないだろうが、ここまで短期間に集中して大量に行われたということは、明らかに個人の仕業ではなく、一定の意図を持った組織的な関与が疑われる。

そもそも一般人が生きた牛豚を盗んでも文字通り始末に困る。どのようにして捕まえ、輸送するかだけでなく、仮に解体するにしても簡単にはできない。さらに、昨今では家畜は生まれた直後から番号あるいはDNAで識別可能な形になっているため、そのままでは通常の流通ルートに乗せて販売することは難しい。自分で処理して食べるにしても解体処理の場所や道具、さらに大型の冷蔵庫など、一般人には手に負えない様々なハードルが存在する。

そうなると、事情に詳しい人間が関わり、組織的に行われていると考えた方が筋は通る。あるいは本当に目の前で食べるモノに見境が無くなるほど飢えたか、である。

そのようなことを考え、海外の事例や歴史を調べてみたところ、家畜を盗む行為は各国で報告されている。このテーマ1つで本が書けるであろう。横道に逸れるが、テーマに悩む若い研究者は思い切って取り組んでみたらどうか。

例えば、他人の牛を盗む行為は7000年以上前から記録されているようだ。西部開拓時代の米国でも家畜泥棒は重大な犯罪とみなされていたし、アメリカ・メキシコ戦争や南北戦争の時にも相手方あるいは第3者が交戦中の相手の家畜を襲撃することは大問題となっている。

最近では2015年のイスラエル発の報道(「ハアレツ」紙、2015年12月6日)がある。同国北部では羊や山羊、牛、そして農業関係の各種施設などを含め年間約400件の盗難が報告されており、同国の農家が直面する最大の問題の1つと伝えられている。盗まれた家畜は別の場所で密かに解体処理され再び市場に戻されるらしい。ここでのポイントは、市場でこれらの食肉を買い求めるほとんどの一般消費者は、いわば「善意の第三者」でしかないことだ。イスラエルの家畜盗難については昨年も報道されている(例えば、BBCニュース、2019年6月8日)。

悪い奴らがフードシステムのどこにいるかが本当の問題という訳だ。

このように世界でも起きているから日本でも起きて当然、などと言う気は毛頭ない。ただ、どうも日本社会における安全性確保レベルが従来とは一段、悪い方に変化してきたようだ。

 警察庁の「犯罪統計資料」を見ると、2019年1~12月の窃盗犯認知件数は約53万件である(別表)。この内容は、侵入盗、乗り物盗、非侵入盗に分かれ、さらに細目があるが、そこには今回のような家畜の窃盗は項目としてすら独立して存在していない。それだけ微々たるものであったのであろう。

2009年当時は年間130万件以上の窃盗認知があったことを考えれば、従来型の窃盗に対する防犯措置は大きく改善したのだろうが、畜産農家の家畜防犯措置はその網の目に漏れた可能性がある。環境変化に対応した火急的かつ継続的な対策が必要ということだ。

今回のニュースに接し、家畜窃盗の規模だけでなく、窃盗一般の数字内容を見直し驚きました。犯罪の形が明らかに従来とは変わってきていること、国際的な食肉需給状況の変化を踏まえ、少なくとも高齢化した方が多い農家自身による防犯だけでなく、JAや行政など地域が一体となった実効性ある家畜防犯体制の構築が必要ではないでしょうか。


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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】

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