『道徳』の教科化と金次郎の復活【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第114回2020年9月3日
平成の時代に「道徳教育」で二宮金次郎の話があまり出なくなった、なぜかよくわからないなどと考えているうちにふと思い出した。そういえば最近道徳教育のあり方が変えられたのではなかったかと。
そうだった、これまでの「道徳教育」が戦前の「修身」と同じような教科に昇格し、検定教科書を用いて児童生徒を評価する『道徳』に変わったのだった。そして2018年(令和の始まる直前の年)からそれが実施されていた。とすれば、それを機会に金次郎などもう時代にあわないと道徳教育の指導要領から抹殺されてしまっているかもしれない。そう思ってネットで検索してみた。
そしたらその逆だった。二宮金次郎の生き方はすべて道徳教育の観点に合致するという文部科学省の学習指導要領にもとづき、道徳の教科書に載せられるようになっていた。驚いた、私の年のせいなのか、そもそもの注意力散漫、勉強不足のせいなのか、まったく知らなかった。その自己批判はとりあえずおくが、昭和に語られていた二宮金次郎は令和の時代になって復活したのである。
なぜ今の時代になって復活なのだろうか、なぜ今金次郎なのか、不思議でしかたがない。
といいながら実は私、半分うれしい。
天皇、貴族、武士、大商人等の支配階級や芸術家等の有名人の名前だけでなく、「農民」である金次郎・尊徳の名前が教科書に載り、その生き方、考え方などが子どもたちに紹介される、このことだけはいいことだと思うからだ。「道徳」の教科書というのが気にいらないが、忘れてしまわれるよりはいい。日本人みんな最低限名前だけでもいいから二宮金次郎・尊徳を覚えておいてもらいたいし、できたらその生き方、考え方、やったことを知ってもらいたいからだ。もちろん尊徳の考え方、生き方には問題点も多々ある(いうまでもなくそれには時代の制約があったのだが)。それはふまえながらも評価すべき点が多々あり、問題点や限界も含めて知ってほしいのである。
だから、金次郎・尊徳の名前が再び語られるようになるのはともかくうれしい。平成の時代、このまま忘れ去られようとするのかと淋しかったのだが。
前回本稿に登場してもらった角田君(東北大教授)が講義で「報徳思想」について話をしたら学生はあまりピンときていないようす、「報徳学園」という学校は聞いたことがあるという程度だったとのこと、そんなことはこれからなくなるだろう。
しかし、残り半分はやはり怖い。
お国(支配者)にとって望ましい人材にするために子どもたちを「教化」することを目的とする『道德』という教科のなかで金次郎が教えられるからだ。
戦前の『道徳』教育=昔の「修身」の授業はまさしくそうだった。戦前の修身は「お国のため」「天皇陛下のおんため」に身も心も尽くす人材にするために子どもたちを「教化」することを目的としたのだが、二宮金次郎・尊徳もその一環として取り上げられ、利用された。
今回の「道徳」の教科化もいま国家権力をにぎっている政財界のおんために身も心も尽くす人材に子どもたちを「教化」することを目的にしてやろうとしているのではなかろうか。とくに戦後レジームの解体の一つとして道徳の教科化を強行した安倍政権はグローバル派兵国家建設にまい進し、新自由主義を信奉しながらも愛国心をもつ大人になるように子どもたちを教化しようとしているのではなかろうか。そしてそのために二宮金次郎がふたたび悪用されるのではなかろうか。
戦前戦後のさまざまな経験で疑い深く、ひがみっぽくなってしまったせいか、そんなことをついつい考えてしまって素直に金次郎・尊徳の復活を喜べない、困ったものである。
それでは国家権力は具体的にどんな風に金次郎を利用しようとしているのろうか。
よくわからない。今わが国は巨大多国籍企業に支配され、拝金主義、利己主義の思想が蔓延している社会、農林漁業を軽視する社会となっているのだが、なぜそのなかで金次郎・尊徳なのか、よくわからないのである。
それなら道徳の教科書や指導要領等々の資料を集め、その道の専門家の話を聞き、関連論文を読めばいい。しかし、そうしたものをすべてそろえて分析検討するほどの能力も時間ももはや私にはない。そもそも私は専門の農業経済学の研究すらリタイアしている身、よその分野にまで手を伸ばすなどできるわけはない。どなたかぜひ研究していただいて私たちに教えていただければ幸いなのだが。
などと書いていたら、安部首相辞任とのニュース、TPPや農協攻撃等で日本農業を衰退させてきた長期政権が終末を迎える、これは喜ばしい。とはいっても予測されている次期政権にもあまり期待できそうにないが。
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