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良い子は真似しないでね【小松泰信・地方の眼力】2020年9月9日

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【小松泰信・(一社)長野県農協地域開発機構研究所長】

日本ジャーナリスト会議(JCJ)は9月7日、優れたジャーナリズム活動に贈る2020年のJCJ大賞に、公費で首相が主催する「桜を見る会」に安倍晋三首相の地元後援会員が多数招待されたことをスクープした日本共産党の機関誌「しんぶん赤旗」日曜版の報道を選んだ。同紙の配達に携わる者として、誠に誇らしい受賞である。

komatsu_honbun.jpgネタの宝庫

またJCJ賞には、森友学園問題に関連して自殺した元財務省近畿財務局職員の妻赤木雅子さんと大阪日日新聞の相沢冬樹記者の「森友問題で自殺した財務省職員の遺書の公開」と、2019年7月15日、安倍晋三首相が札幌で参議院選挙の応援演説をしているときに、少なくても9人が警察によって排除されたことについて、ヤジ排除の正当性を真正面から検証した、北海道放送のドキュメンタリー番組「ヤジと民主主義~小さな自由が排除された先に~」など4点が選ばれた。

受賞した5点のうち、安倍案件は3点。まさにネタの宝庫。今後は、ストレスのないポジションに鎮座し、薬も効いて、ゴルフ三昧の絶好調。「小人閑居して不善をなす」とすれば、何を企むことやら。要監視対象者であることは間違いない。

神輿に乘る「凡庸な悪」

その安倍氏を官房長官として支え続けてきた菅義偉氏が、ポスト安倍の座を得るのは確定的である。

以前、枝野幸男立憲民主党代表のインタビューをした際に、菅官房長官に対する否定的なコメントを期待した質問に対して、枝野氏は「菅さんは有能な官房長官です。官房長官の仕事は、首相に火の粉が及ばないように守り通すこと。その点からすれば、有能なかたです。ただ、守るべき人を間違っているだけ」という、趣旨の答えであった。思惑違いで、正直納得はしなかった。その後も、当コラムの菅氏への印象は、悪くなるばかりであった。そして、枝野氏に付けた疑問符もそのままである。

なぜ菅氏に対する印象が改善しないのか。その理由が、9月8日の出陣式や記者会見などでの氏の言動から鮮明化した。

キーワードは「凡庸な悪」。ドイツ出身の政治哲学者、ハンナ・アーレント(1906~75)は、ナチスドイツによるユダヤ人虐殺において、主導的な役割を果たしたアドルフ・アイヒマンの風貌、雰囲気があまりにも「普通の人」だったことから、裁判の模様をまとめた本の副題に「悪の陳腐さについての報告」と付した。

思考を停止し、与えられた仕事に疑問を感じることなく精励した結果が世界史に残る大虐殺。想像力や思考力が欠如したら、人は誰でもアイヒマンになる可能性があることを教えている。

政治屋の世界には、「担ぐ御輿は軽くてパーがいい」そうだ。でもね、軽くて、悪けりゃ、国民はたまったもんじゃないからな。

コントがスリラーへ

「7年8カ月続いた第2次安倍政権を振り返ってみると、頭に浮かぶのは、やはりいろいろと面白すぎた出来事たちだ」で始まるのは放送作家の内村宏幸氏(西日本新聞、9月7日付)による「長期政権考 安倍1強の7年8カ月」である。

「サイバーセキュリティ担当大臣がパソコンを使えない」ことは、非の打ちどころがどこにもない完成度の高いコント。

「募るというのは募集するという意味ではない」という安倍氏の答弁は、「ある意味、『逆名言』として後世に残した方がいいのかも知れない」との提案。

「だが、まだコントみたいだと笑えるうちはよかった。次第に度を超してきて、悲しいかな、笑えなくなってきていた」そうだ。そして、「この7年8カ月の間に、子どもでもわかる〝やってはいけない事〟をいくつもやってしまったと思う。政治に関心のない私でも、身に迫る恐怖というものを確かに感じた」と、コントからスリラーへの変化を率直に記している。

心身のバランスを壊す子どもたち

子どもでもわかる〝やってはいけない事〟を政治の中枢にいる大人たち、それも総理大臣が率先してやっていることを、見たり聞いたり感じたりする子どもたちの心身が、バランスを崩し不健全なものになることは容易に想像できる。

そのことを、国連児童基金(ユニセフ)が先進・新興国38カ国に住む子どもの幸福度を調査した結果が教えている(9月3日発表)。

調査対象の三分野とそれぞれの順位は次のようになる。
(1)精神的幸福度(生活満足度の高い子どもの割合、自殺率):37位。
(2)身体的健康(子どもの死亡率、過体重・肥満の子どもの割合):1位。
(3)スキル(読解力・数学分野の学力、「すぐに友達ができる」との回答率):27位。
これら3分野の総合順位としての「子どもの幸福度」は20位。

世界に誇れるのは、身体的健康のみ。精神的幸福度は極めて低い。スキルにおいても、学力は平均を超えているが、友達づくりは平均以下。まさに、心と体の顕著なアンバランス状態である。

あなたは背中を子どもたちに見せられますか

この調査結果に危機感を覚えた琉球新報(9月8日付)の社説は、「子どものありようは大人社会の鏡だ。生きがいを感じ、自殺に追い込まない人間関係や多様な価値観を育む寛容な社会の実現が求められている」として、「弱者や他者を思いやる心を育むこと」の重要性を強調する。

さらに、国連の2020年版世界幸福度報告書から、日本全体の幸福度世界ランキングも、一昨年の54位、昨年の58位からさらに後退し、62位だったことを取り上げ、「自己肯定感と寛容さは大人社会でも問われている。多感な子どもたちへの影響を考えると、大人社会から変えていく必要がある」とする。

「世界一幸福な国」と呼ばれるデンマークへの留学経験者が、「『大人は自分たちの声に応えてくれる』という絶大な信頼感を持っていると感じた」と語っていることから、「子どもは社会の未来を担う大切な存在だ。多様な価値観を認める社会へ大人たちが率先して取り組み、背中を見せる必要がある。子どもたちは大人の態度をしっかり見て鋭敏に感じている」と、大人たちに訴える。

ところが、毎日新聞と社会調査研究センターが8日に行った緊急全国世論調査で、「あなたが投票できるとしたら誰に投票しますか」と尋ねたところ、菅氏が44%、石破氏が36%、岸田氏が9%(毎日新聞、9月9日7時配信)。ついこの前までは、数%しかなかった「凡庸な悪」を、これだけの大人が担ごうとしている。これが本当の「悪のり」か。良い子は見ちゃダメ、真似ちゃダメ。
「地方の眼力」なめんなよ


本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

小松泰信氏のコラム【地方の眼力】

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