【浅野純次・読書の楽しみ】第54回2020年9月15日
濱田研吾『俳優と戦争と活字と』(ちくま文庫1210円)
新劇、映画、歌舞伎好きの中年以上の人には、次から次へ知っている名前が登場してくる本書はおおいに楽しめるでしょう。なにしろ人名索引には698人もが登場して、壮観の一語です。
伊藤雄之助は「理由はわからないが古参兵に殴り続けられた馬面の二等兵」であり、兵隊に取られずに済んだのは痔のせいだったと自ら語っていた片岡千恵蔵、「生き残った特攻兵」を装ったのに単なる整備兵だったのではないかという疑惑が死ぬまでついて回った鶴田浩二など、たくさんのエピソードが出てきて飽きさせません。
一方、地方公演の広島で被爆した劇団員たちを弔い続けた徳川無声、満州から命からがら引き揚げる同胞の先頭に立ち彼らの命を守るべく奮闘した芦田伸介など、死と向き合った俳優たちの話もたっぷりで、戦後75年、戦争の不条理さを知る好個の書でもあります。
膨大な本、雑誌、ビラ、チラシを渉猟しての本書は演劇や映画が戦争とどう向き合ったか、どう巻き込まれていったか、の貴重な記録でもあります。
充実の労作であり、俳優の名を知っていればいるほど面白く読めるでしょう。と同時に、とくに戦争を知らない世代にはぜひ読んでほしいと思います。
長谷部恭男『戦争と法』(文藝春秋、1760円)
憲法学者として私が最も注目する一人である著者は、戦争論でも屈指の存在です。本書は戦争と法についての論理的展開の書というよりも、古今東西の戦争について法的に考えた場合のポイントを追求していく本という意味で、戦争と法の優れた入門書であるというふうにもいえます。
16世紀のイングランドが宗教対立から侵攻の対象となった話、国民動員国家をめざしたナポレオンの戦略、憲法典の間隙を突いたビスマルクの政治。まだまだ続きます。第4次中東戦争、フォークランド紛争、朝鮮戦争。これらの戦争について詳しい経緯、政治家や軍人の思惑、法的制約や法の不整備の問題などが指摘されます。
生き生きした話なのでついつい引き込まれていく中で、戦争で攻撃目標となるのは領土ではなく、国家の社会契約、つまり憲法原理であるということが明らかにされます。日本の憲法論議にもこうした点がもっとしっかりと位置づけられる必要があるのでしょう。異色の法律書として一読をお勧めします。
南彰『政治部不信』(朝日新書、869円)
政権交代に期待するにせよ、しないにせよ、多くの人が政治報道に不満を抱いているはずです。著者は朝日新聞政治部記者から今は新聞労連委員長として、新聞のありように警告を発し続けています。
いちばんの論点は記者たちの政治家に対する弱腰です。記者会見も中途半端な追及で終わることが多い。首相会見がほとんど内閣官房の主催であるため、質問を事前に提出させられて相手は十分準備して臨むし、司会も官邸の広報官が行うためいつも時間切れにしてしまう。会見は記者側が仕切るべきです。
番記者たちは政治家と癒着せざるをえないのが実情です。政治家との会食も、懐に入らなければ良い情報はとれないと弁解が聞かれますが、著者は厳しい意見を述べています。
政治記者には、骨のある同僚記者を守るくらいの気概はあってほしい。それと、これは新聞を読み、テレビを見る私たちの側の問題であるというふうにも感じた本でした。
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