コロナ禍ニューヨークで人気の玄米おにぎり【熊野孝文・米マーケット情報】2020年9月23日
アナログ世代としてはコロナ禍で次々に起こる変化について行くのが精いっぱいで、まさかこんなことまで経験するとは思わなかったという事ばかりである。先週はニューヨークと東京をwebで結んで取材することになった。
発端は農水省の某課長からニューヨークのおむすび店で毎日記録を更新するほど玄米おむすびが良く売れているという話を聞いたからで、早速、ニューヨークに店舗を構えているおむすびチェーン店の東京本部に電話で聞いてみたところ、親切にもニューヨークにいる海外事業本部長と直接話が出来るように東京でセットしてくれるという。取材当日東京本部に出かけ、国内の状況を聞いた後、ニューヨークにいる本部長に取材することになった。パソコンの画面上に本部長が現れたが、あまりにも画像が鮮明で音声もすぐ近くにいる様に聞こえたため思わず「本当にニューヨークなんですか?」と聞いてしまい失笑を買ってしまった。30分ほどの取材時間であったが、現地の状況が良く分かり、日本米の輸出拡大の可能性を感じることが出来たので要約を紹介する。
〇ニューヨークがロックダウンされたことから店舗も3月23日から6月14日まで閉店を余儀なくされた。その間文字通りゴーストタウン化したが、再開後も売り上げは4割程度に留まっている。
〇再開後の変化として売上比率に占める玄米おむすびの比率がアップした。それまでは8%~9%程度であったが、それが14%までアップした。
〇ニューヨーク店は2017年にオープンしたが、コロナ禍までは売り上げがずーっと右肩上がりで来ていた。
商品のメニューの半分は日本で販売されているものと同じだが半分は現地限定のメニュー。〇売れ筋のナンバーワン商品は鮭おむすびで、これは日本もパリ、ニューヨークも同じ。2番は現地限定のスパムむすび。ハワイでスパムむすびが人気でこれを取り入れた。パンチの効いたもの辛いものといった味が濃いものが好まれる。
〇玄米おにぎりは、高菜玄米など8種類を販売している。販売価格は1個2ドル程度でハンバーガーと同程度。購入層にはビーガンが多い。ビーガンの人にとっては、玄米おむすびは安い食べ物。
〇コメは日本から冷蔵コンテナで玄米を輸入、現地で精米する。店舗にはかならず日本のコメ生産者の写真を掲げる。それを見て「日本で作られたコメなのか」と聞いてくる顧客もいる。
〇10年前にニュージャージー店をオープンした時は、おむすびに対する現地の人の認知が低く、「これは甘いのか」と言った質問も受けたが、現在はそうした質問はほとんどない。鮨が先行して海苔で巻いた食べ物が抵抗なく受け入れられている。
〇おむすびの美味しさ評価について現地の人のレベルが上がっているのを感じている。日本人みたいに「このおむすび美味しいね」と言う人もいる。
〇オーガニックに関心を持つ意識の高い人は増えている。ニューヨークで日本の自然農法米や有機米を店頭販売しているところがちょうど開店1周年を迎えたが順調に販売量が増えているという。
以上がニューヨークのおむすび店の情報概要だが、玄米おむすびがなぜ売れているのかについては、この店でも調査しているわけではないのではっきりした理由は分からないが、玄米が栄養素や食物繊維を多く含んだ食品素材だという事は良く知られている。それに加え最近では玄米に含まれるある種のビタミンが食細胞マクロファージを活性化させるという研究成果も発表されている。要は人間の免疫力を高めるための成分が含まれているということで、さらには玄米に含まれる天然アミノ酸は認知症予防効果があるのではという研究報告もある。
こうした研究成果が明らかになる以前から玄米食の効能はマクロビオティックという名称でアメリカで広がり、これを広めた日本人はスミソニアン博物館に殿堂入りしている。
近年では日本で開発された玄米商品がアメリカ農務省のホームページに掲載されるようになっており、玄米食は日本で生まれたものがアメリカで流行る傾向を辿っている。逆に言えば玄米食の効能に対してこれほど沢山の情報があるのに日本でなぜ流行らないのかと言う素朴な疑問が涌いてくる。それについて良く言われるのが玄米食の美味しさがネックになっているという事で、確かに炊飯器の玄米炊飯モードで炊いても美味しいとは言い難い。
いっそのこと玄米に含まれるあらゆる栄養素を抽出して、それを凝縮してサプリメントのようにして白米に転嫁するという方法はとれないものか。それが出来れば格段に用途が広がりコメの消費拡大に繋がるような気がするのだが。
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