(199)1933年:コメ作況指数120【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2020年9月25日
日本語では農作物の出来が良くないとき、「豊作・不作・凶作・大凶作」という形で表すことができますが、統計ではこれとは別に作況指数というものが使われています。今週はこの作況指数を用いて少し昔の動きを見てみましょう。
水稲の作況は、平年を100として5段階に分けて示される。平年並みは99~101である。そして90以下が著しい不良、106以上を良としている。作況指数そのものの計算は、「10アール当たりの収量」を「10アールあたりの平均収量」で割り100を掛けるという簡単なものだ。作物統計を遡ると、水稲では作付面積や収穫量は明治16(1883)年から、そして作況指数は昭和元(1926)以降が公表されている。
この作況指数を単純にグラフ化したものが下の図である。1926年からだと全国平均のデータ数は94あるが、一見してほぼ平年並みの100近くに収束していく感じがわかる。興味深いのは、豊作の中でも大豊作と言える120近い年が2件あることだ。ひとつは1933年の120、もうひとつは1955年の118である。これは94年間の第1位と第2位である。1955年は実体験として実感している農家の方も比較的いると思うので、ここでは1933年を検討してみたい。
そもそも1933年が大豊作? という大きな疑問が生じる。中学の歴史で学んだ大恐慌はこの頃ではなかったか。実はこのあたりの細かい時系列は意外と混乱しやすい。実際には、以下の流れのようだ。
・昭和4(1929)年9月4日、米国で株価暴落、その後、世界恐慌へ。
・当時の日本は貴重な外貨獲得源であった生糸の対米輸出が恐慌で激減し、国内で生糸価格は暴落。それが他の農産物にも波及していわゆる昭和農業恐慌へ。
・昭和5(1930)年、日本のコメは豊作(作況指数112)でさらに価格が下落し、いわゆる豊作飢饉へ。前年のコメ収穫量は880万トンだが、この年は979万トン。
・昭和6(1931)年、北海道・東北地方の冷害により作柄は悪化、作況指数は90へ。昭和農業恐慌がピークに。疲弊した農村での「青田売り」や「人身売買」が深刻化したのもこの年のようだ。コメの収穫量は810万トンと記録されている。
・昭和7(1932)年、作況は99と回復し、収穫量は885万トンとなるが世の中はキナ臭くなる。3月に満州国建国、5月には5・15事件で犬養首相が殺害され、7月にはロスでオリンピック、8月にはドイツでナチス党が圧勝する。収穫の秋、9月15日には日満議定書が締結され、満州国の承認と共同防衛の名目で関東軍が満州に駐屯することが決まる。11月には米国でルーズベルトが大統領選に勝利している。
こうした流れの中での昭和8(1933)年である。日本のコメは再び大豊作となる。作況指数は史上最高の120、収穫量1044万トンと記録されている。実はこの年の3月3日、昭和三陸津波が東北地方を襲い大被害をもたらしている。それでもこの作況指数と収穫量になったのは凄い。このあたりの事情は機会をみてしっかりと理解しておきたいと思う。
さて、翌昭和9(1934)年は、前年の作況指数120から一転して85という大凶作となり、収穫量も763万トンに減少している。世界恐慌から昭和恐慌に続く一連の厳しい状況がようやく回復基調となった中での大凶作である。農村はまさに豊凶に翻弄されたようだ。さらに、昭和初期における外地米の流入や、耐寒性に優れた品種改良が十分でなかったことなど、いくつかの要因が考えられる。
日本のコメ収穫量はその後、昭和14(1939)年に一度1005万トンを記録するが、それまでと、それ以後は基本的に800~900万トン水準で推移している。悪い方を見た場合の第1位は昭和20(1945)年で、作況指数67、収穫量582万トン、これは終戦の年であり、作況指数は過去94年で最低の年である。その次が平成5(1993)年、作況指数74、収穫量781万トン、記憶に新しい平成コメ騒動の年である。
* * *
終戦後、コメ収穫量は急速に回復し、昭和30(1955)年には1207万トンにまで到達しています。それにしても、当時の輸出の花形であった「生糸」を現代では「自動車」に置き換えてみるのは余り好ましくない思考実験かもしれません。良い点は、少なくとも長期的に見て作況指数は大きく変動しなくなってきていること、そして、そうなるといよいよ需要創出・市場開拓が本当に重要になるという事ではないでしょうか。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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