早まるな!女性たち!【小松泰信・地方の眼力】2020年9月30日
さまざまなことを実現せずに終焉を迎えた安倍内閣。その内閣を象徴する言葉として、「道半ば」をあげるのは、中島岳志氏(なかじま・たけし、東京工業大学教授、近代政治思想史、西日本新聞9月25日付)。さらに、「安倍内閣の本質は、『実現しないことによって支持を獲得する』というカラクリにあった」とする。ぶら下げられたニンジンを、もう少し、もう少しと思いながら走り続ける「馬」に例えられたのは、安倍内閣に一票を投じてきた人たち。
「女性活躍」も道半ば
「安倍政権が看板に掲げた『女性活躍』は社会の関心を集めた。同時に当の女性たちを困惑させ、落胆させてもきた」で始まるのは、神戸新聞(9月10日付)の社説。
この「女性活躍」を振り返り、「経済成長第一の姿勢が鮮明」で、「男女平等や男女共同参画といった視点が乏しい」「労働力として活用することを女性活躍と言い換えている」と総括する。
安倍氏が誇る雇用拡大も、「顕著に増えたのは非正規雇用であり、その多くを女性が占め」ているとし、「女性の貧困への関心は薄い」ため、「国際的にも際立つ政治や経済の『男性中心』を是正しようとする本気度は全く伝わってこない」と、厳しく批判する。
そして、一連の政策によって「男女格差が根強く残っている現状を可視化した」ことを、「最大の『功績』」と、皮肉る。
苦境にあえぐ非正規労働者
西日本新聞(9月25日付)は、九州7県の労働局への取材で、「会社都合の退職」(解雇・雇い止め)の人数を集計し、4月から7月の間、企業から解雇や雇い止めとされた人が前年同期比42%増の2万3692人にも及ぶことから、雇用環境がより悪化している実態を1面で報じている。
福岡労働局などによると、飲食業や小売業、製造業が中心で、契約社員や派遣労働者など非正規社員が目立つとのこと。
「雇用環境の悪化が本格的に現れるのは景気悪化の半年後のため、10~12月が正念場になる」とする永浜利広氏(第一生命経済研究所首席エコノミスト)のコメントは興味深い。
社会面では「コロナ解雇『私たちは駒』」という見出しで、福岡市に住む2人の女性の苦しい情況を紹介している。
派遣労働者として今年1月から営業の仕事を始めた女性(41)は、全国でもトップクラスの営業成績だったが、4月に派遣先から在宅勤務を命じられ、6月末に派遣は終了。「いくら頑張っても会社の都合でいつでも切られる存在」と痛感。年末までは貯金と失業保険でしのげるが、その先は見通せないようだ。
「日本で正社員になるのが夢だったのに」と肩を落とす韓国人の女性(27)は、中学生の頃から日本に憧れ、昨年7月に市内の免税店で契約社員として働き始めた。日本人の上司から「2年頑張れば正社員」と言われ、急な残業も積極的に引き受けてきた。しかし、3月に入って上司から「3日後から来なくていい」と、一方的に解雇通告。失業保険で食いつなぎ職探しに奔走するが、入管難民法の規定で働き口は限られる。訪日客が消えた今、あえて韓国人を求める会社はほとんどないとのこと。
コロナ禍による雇用環境悪化で、苦境にあえぐ非正規労働者たちが増えているのは、九州だけではないはずだ。
増える自殺者。それも女性!
『令和元年中における自殺の状況』(厚生労働省・警察庁、2020年3月)によれば、「自殺の多くは多様かつ複合的な原因及び背景を有しており、様々な要因が連鎖する中で起きている」が、原因・動機が明らかなもののうち、個々の要因別にみると、「健康問題」にあるものが最も多く、次いで「経済・生活問題」、「家庭問題」、「勤務問題」の順となっている。
とすれば、コロナ禍による雇用環境の悪化などで、自殺者の増加、それも女性の増加が懸念される。
警察庁発表の今年の月別自殺者数を昨年と比較すると、特徴点として次の3点があげられる(なお今年8月は暫定値)。
(1)自殺者総数は、6月までは前年より少なかった。7月から増加に転じて1.4%増の1818人、8月は15.7%増の1854人。
(2)女性は、5月までは前年より少なかった。6月から増加に転じて2.2%増の506人、7月は15.6%増の651人、8月は40.3%増の651人。
(3)男性は、1月に0.1%増の1185人。2月から7月までは前年を下回り、8月に5.6%増の1203人。
以上から、女性の自殺者が急増していることには驚かされる。正直に言う。数値を見て、我が目を疑い、寒気がした。
本当に「国民のために働く内閣」ですか
「これほど自殺者が増えたこと、特に女性の増え方が凄まじいことにコロナ不況の影響を如実に感じる」とするのは、雨宮処凛氏(あまみや・かりん、作家・政治活動家、「雨宮処凛がゆく! 第533回」9月23日)。
氏は、「コロナによって真っ先に打撃を受けたのは観光や宿泊、飲食業など。これらのサービス業の支え手の多くは非正規女性たちだった。その多くがなんの補償もなく、突然放り出されてしまったのだ。そしてそんな女性の一部は実際に、ホームレス化にまで晒されている」として、「ホームレス化につながる女性がこれほど存在するというのは、貧困問題に16年かかわっていて初めての経験」と、驚きを隠せない。
その背景として「この20年以上かけて『雇用の調整弁』として非正規化が進められてきたこと、特にそれが女性に集中し、働く女性の半数以上が非正規であること、そして同時にこの『失われた30年』で、家族の余力が失われてきたこと」を、指摘する。
さらに4月から支援活動にかかわる中で、「この人、私たちに出会えてなかったら自殺してたかもしれないな」というケースが多々あったことから、「コロナで顕在化しただけで、コロナ以前からこの国は満身創痍だったのだ」と、容赦ない。
年末年始を迎えるこの時期に「また自殺者が増えたならそれは完全に『政治の無策』だ」としたうえで、まずは「必要な人には、何度でも給付を」「できるだけ、簡単な手続きで」と訴え、「それで救える命は確実に、多くある」で締める。
前述した、「10~12月が正念場になる」とする永浜利広氏のコメントと考え合わせるとき、事態は極めて切迫している。
本当に「国民のために働く内閣」なら、コロナ禍で窮地に追い込まれている人々を救い出し、看板に偽りがないことを証明せよ。
貧困、ホームレス、そして自殺、これほどまでに追い込まれていく女性たち。それに各種のハラスメントという名の災禍も降りかかる。そんな情況に目もくれず、「女性はいくらでもうそをつけます」と言える国会議員の神経は、度し難し。
政治家としてもヒトとしても問題大有りのあなた。少なくとも国会議員の資格なし。今すぐ外せ! そのバッジ。
「地方の眼力」なめんなよ
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