科学を無視する菅政権【森島 賢・正義派の農政論】2020年10月5日
菅義偉首相が、学術会議の推薦した6人の新会員の任命を拒否した。露骨な人事介入である。政府は、首相には任命権があって、それは義務ではない、と苦しい説明をしている。
学術会議といえば、学者の国会ともいわれて、全国の科学者を代表する最高機関である。ここの人事に介入することは、政治による科学の支配といっていい。学問の自由の否定である。
しかし、科学は政治が支配できるほど脆弱なものではない。だから、政治はせいぜい、不都合なばあいに不貞腐れて科学を無視する、という程度のことしかできない。だが、科学はそれほど寛容ではない。科学を無視すれば、その後には、必ず手痛い仕返しがある。
COVID‐19対策についても、科学の無視がある。先週、科学を無視した大統領が、また1人COVID‐19に感染した。日本は、これを他山の石とせねばならない。
日本学術会議法をみると、その第7条に「会員は、・・・A・・・に基づいて、内閣総理大臣が任命する。」と書いてある。政府はこれを曲解して、首相に任命権がある、といいたいのだろう。・・・A・・・の部分は、学術会議の推薦である。
これとほとんど同じ条文が憲法にある。日本国憲法の第6条には「天皇は、・・・B・・・に基づいて、内閣総理大臣を任命する。」と書いてある。・・・B・・・の部分は、「国会の指名」である。だが、これを曲解して、天皇に内閣総理大臣の任命権がある、という人はいない。
だから、首相に学術会議会員の任命権があるという人が論理を知っている人なら、天皇に内閣総理大臣の任命権がある、と考えていることになる。つまり、日本は天皇制の国だ、ということになる。それとも、その場かぎりで言を左右する似非政治家なのか。
首相が学術会議の人事に介入したことは、自由と民主主義と法の支配に対する露骨な挑戦なのである。
◇
さて、COVID‐19問題だが、政府の対策をみると、そこには科学がない。科学の根拠となるべき事実の認識を、ほとんど無視している。いま、日本に何人ほどの感染者がいるのか。それさえ、誰にも分っていない。政府も分かっていない。それどころか、分かろうともしない。
これでは科学にならないし、科学に基づいた対策を考えようがない。いったい、政府は、何をしているのか。
もちろん、医学の第一線で治療にあたっている科学者を批判しているわけではない。第一線で献身的に治療に当たっている医師や看護師たちの崇高な精神には、払いきれないほどの敬意を払いたい。
だが、ここには、崇高な精神に報いるだけの、科学に裏打ちされた対策の全体像がない。そのなかで医師や看護師たちは先の見えない悪戦苦闘を強いられている。
ここには、体制に根ざした問題がある。事実を事実に即して正確に見るという体制がない。いまの体制は、不要不急のデータを作り、それをFAXで送る、などという前時代的な体制を続けている。
鳴り物入りで新設したデジタル庁の人たちが、このことを知ったら、あきれるだろう。
そうした体制のもとで、国民は病苦と死への恐怖を強いられ、医師や看護師たちは悪戦苦闘を強いられている。
◇
この基礎には、いまの政治の科学を軽視する姿勢がある。この姿勢を改めないかぎり、COVID‐19による病苦と社会の苦難は、いつまで経っても克服できないだろう。
いま必要なことは、感染の実態の正確な把握である。そのための抗原検査と抗体検査の体制の抜本的な整備である。そして、隔離体制と医療体制の拡大と整備である。それらなしで、科学に基づくCOVID‐19対策は考えられない。
(2020.10.05)
(前回 孫正義さんの快挙)
(前々回 国民の側に立つCOVID‐19対策)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
【人事異動】JA全農(2025年1月1日付)2024年11月21日
-
【地域を診る】調査なくして政策なし 統計数字の落とし穴 京都橘大学教授 岡田知弘氏2024年11月21日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】国家戦略の欠如2024年11月21日
-
加藤一二三さんの詰め将棋連載がギネス世界記録に認定 『家の光』に65年62日掲載2024年11月21日
-
地域の活性化で「酪農危機」突破を 全農酪農経営体験発表会2024年11月21日
-
全農いわて 24年産米仮渡金(JA概算金)、追加支払い2000円 「販売環境好転、生産者に還元」2024年11月21日
-
鳥インフル ポーランドからの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月21日
-
鳥インフル カナダからの生きた家きん、家きん肉等の輸入を一時停止 農水省2024年11月21日
-
JAあつぎとJAいちかわが連携協定 都市近郊農協同士 特産物販売や人的交流でタッグ2024年11月21日
-
どぶろくから酒、ビールへ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第317回2024年11月21日
-
JA三井ストラテジックパートナーズが営業開始 パートナー戦略を加速 JA三井リース2024年11月21日
-
【役員人事】協友アグリ(1月29日付)2024年11月21日
-
畜産から生まれる電気 発電所からリアルタイム配信 パルシステム東京2024年11月21日
-
積寒地でもスニーカーの歩きやすさ 防寒ブーツ「モントレ MB-799」発売 アキレス2024年11月21日
-
滋賀県「女性農業者学びのミニ講座」刈払機の使い方とメンテナンスを伝授 農機具王2024年11月21日
-
オーガニック日本茶を増やす「Ochanowa」有機JAS認証を取得 マイファーム2024年11月21日
-
11月29日「いい肉を当てよう 近江牛ガチャ」初開催 ここ滋賀2024年11月21日
-
「紅まどんな」解禁 愛媛県産かんきつ3品種「紅コレクション」各地でコラボ開始2024年11月21日
-
ベトナム南部における販売協力 トーモク2024年11月21日
-
有機EL発光材料の量産体制構築へ Kyuluxと資本業務提携契約を締結 日本曹達2024年11月21日