(201)ヒトはどこまで肉を作り、食べるのか【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2020年10月9日
一頃、肉食系、草食系という表現で個人の性格について色々言われたことがあります。現在の肉食はどうなっているのでしょうか。少し長い時間で見ると、どのように変化してきたかがわかります。今回は、20年程度の時間の変化を見たいと思います。当然と言えば当然ですが、世界の家禽肉生産量が過去20年で倍増していたのは改めて驚きました。
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かつて、「赤肉(red meat)」から「白肉(white meat)」へということが良く言われた。これはビーフからチキンやポークへというのにほぼ等しい。米国にいた当時、非常によく聞いたフレーズである。
これは個人の食生活の話としては正しいが、産業全体としてはどうなのだろうか。実際にはやや様相が異なるかもしれない。正確には、世界人口が着実に増加している以上、牛肉・豚肉・鶏肉の全てが生産・消費ともに増加している。要は、肉の種類に応じた増加の割合がどの程度かという点を考える必要がある。
2000年当時、世界の食肉生産量は牛肉5009万トン、豚肉8139万トン、家禽肉5002万トンであった(注1)。牛肉と家禽肉がほぼ同量というのが興味深いが、合計は約1.8億トンである。これが10年後の2010年には、牛肉5849万トン、豚肉1億303万トン、家禽肉7837万トンで合計約2.4億トンに増加する。牛肉は微増だが、豚肉2165万トン増、家禽肉2835万トン増、そして、米国農務省資料によれば、豚肉生産量が1億トンの大台を記録したのは2009年である。
さて、2010年から現在までの10年間はその前の10年間とはやや様相が異なる。牛肉は少しずつ増加し、2018年に6000万トンを超え、2020年は6079万トンである。豚肉も増加を続け、同じ2018年に1億1293万トンというピークを記録している。だが、2019年は1億200万トン、2020年は今のところ9598万トンが見込まれている。この背景は言うまでもなく、世界最大の豚肉生産国である中国のASF(アフリカ豚熱)である。
こうした状況の中で、家禽肉生産量は2020年、ついに1億トンの大台に乗るようだ。2000年の家禽肉生産量が5002万トンであったことを考えれば20年間で倍増したことになる。平均成長率でいえば毎年3.5%の伸び...、というところであろう。
その結果、現在の世界の食肉生産量は、牛肉6000万トン、豚肉9600万トン、家禽肉1億トンで、合計約2.6億トンと覚えておけば十分である。豚肉はASFが落ち着けば早晩1億トンの大台に回復する可能性が高い。そうなると、豚肉・家禽肉のいずれもが1億トン商材になる。こういう大きな数字は結構役にたつ。なお、2000年と2020年の食肉別生産量の割合を視覚的に捉えると下記のようになる。

最後に簡単な計算をしてみたい。本当は消費量を用いるべきだが、ここまで生産量を用いてきたので遊びと考えて頂ければと思う。
2000年当時の世界人口は61億人である。食肉生産量1.8億トンとすれば1人当たりは約29.5kgとなる。2000年の世界人口は78億人、食肉生産量を2.6億トンとすれば33.3kgとなる。このような雑な計算はそれこそ雑談だが、それでも20年間で1人当たり33.3kg-29.5kg=3.8kg増ということがわかる。これも実は結構な驚きである。
現実世界には平均などというものは存在しない。この3.8kgは乳幼児から高齢者まで含めた本当に訳の分からない計算上の概念の差でしかない。それでも1人当たり換算すると1年間にこれだけ増えるということだ。食べる人は益々食べ、食べない人との違いが極めて大きいということか。2人の点数が100点と0点でも平均は50点になるという平均の怖さを思い出す。それにしても家禽肉、ついに1億トン商品とは...。
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小腹がすいた時に研究室でよく真空パックの白身チキンを口にします。様々な味付けがあり、価格的にも手ごろでカロリーが低く重宝しています。鶏モモ肉はクリスマスの簡単な御馳走だった時代を知る身としては隔世の感があります。それだけでなく、月に1度くらい拳骨大のビーフ・ステーキやポーク・チョップを食べたいという気持ちも依然として健在です。まだまだ仕事をせよということなのかもしれません。
注1:出典:米国農務省、"Livestock and Poultry:World Markets and Trade"の各年。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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