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学術会議問題は暗黒社会への入り口【森島 賢・正義派の農政論】2020年10月12日

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農村で密かにささやかれていることだが、農政には、農業者と政治家と官僚の間に、「三すくみ」の奇妙な均衡状態がある。「鉄のトライアングル(三角形)」と評する人もいる。
農業者は官僚に弱い。農業者が農村を振興しようとするとき、政府の助成金が必要だが、そのための予算を官僚が握っているからである。官僚の機嫌を損ねると、充分な助成金が、わが村に来なくなる。
官僚は政治家に弱い。官僚のトップは政治家だからである。政治家の意に沿わない官僚は、出世できないし、だから予算の多い重要な仕事ができなくなる。
政治家は農業者に弱い。農業者の要求を受け入れないと、次の選挙で当選できない。落選するとどうなるか。サルは木から落ちてもサルだが、政治家は選挙で落ちると政治家でなくなって、ただの人になる、と陰口を叩く人もいる。
以上のことは、「農業者」を「国民」と読み換えても妥当するだろう。菅首相は、この関係を壊そうとしている。

こんどの学術会議問題、つまり首相が、日本学術会議が推薦した6人の会員候補者の任命を拒否した問題であるが、これを考えるとき、首相には国民の力を削ごうとする意図があったと考えるしかない。
首相は、前内閣の官房長官だったとき、官僚たちを充分に痛めつけてきた。こんどは、国民の力を弱めたいと考えているのだろう。そのために、国民からの信頼が厚い学者を痛めつけている。
そうすれば、政治が三すくみの状態から抜け出して、優位に立つことができる。そうして、国民と官僚を意のままに動かせる。そうした独裁状況を作れる。
これは民主主義に対する不当な挑戦である。いったい、独裁状況を作って何をしたいのか。

同じようなことが、戦前にもあった。
1927年、東京大学の美濃部達吉教授が辞任
1930年、京都学派で法政大学の三木清教授が辞任
1940年、早稲田大学の津田左右吉教授が辞任
このように、学者への言論弾圧を書き出すと、きりがない程ある。言論を弾圧しておいて、国民精神総動員運動などというものを作り、政治が国民の精神までも支配しようとした。そうして、日本を戦時体制という暗黒の社会へ向けて突っ走っていった。
いま、菅首相は官僚に忖度を迫り、学者を萎縮させ、言論を封じて、何をしようとしているのか。

菅首相の言動をみていると、個々の政策では国民にとって耳障りのいいことを並べている。だが菅政治の全体像を隠している。
ここで、公助か自助か、などという神学論争をするつもりは、全くない。
国民が知りたいことの1つは、菅首相が、当面の問題であるCOVID‐19感染症問題をどう解決しようとしているのか、である。もう1つは、菅首相が、いまの日本の根本問題である格差問題をどうしようとしているのか、である。

当面しているCOVID‐19問題だが、菅首相は、「来年前半までに、全ての国民の皆さんに行き渡るワクチンの確保を目指しております。」といっている。あと半年あまりの我慢だ、というわけである。こうした超楽観的な予想をしておくほうが、首相にとって好都合なのだろう。本格的な対策を立てなくても済むからである。
しかし、多くの専門家は、この予想は外れるだろうとみている。もしも、多くの専門家が言うとおりなら、半年どころか数年の間、国民に我慢を要求することになる。

もう1つの格差問題はどうか。
菅首相の言動をみていると、格差問題について、どんな政策を考えているのか、全く分からない。
最低賃金を上げるようなことを言っているが、具体的な政策を言っているわけではない。低賃金労働に依存させられている、ことに農業や中小企業についての対策を考えずに言うだけなら、無責任というしかない。
また、低賃金を放置している非正規雇用を規制する政策については、何も言っていない。これでは、低賃金を放置しているのと同じである。

COVID‐19によって、格差問題はますます深刻になっている。多くの国民は、ここに注目して菅政権を見ているのである。
学術会議問題を契機にした言論弾圧が目的にしているところは、暗黒の格差社会ではないのか。
しかし、いまは戦前とは違う。先人たちの努力、つまり、農地改革をはじめとする、戦後の民主化によって、国民の政治力は格段に強くなっている。学術会議問題を取上げて、言論を圧殺しようとしたこんどの企みは、国民の反対によって、結局のところ失敗するだろう。

(2020.10.12)

(前回  科学を無視する菅政権

(前々回 孫正義さんの快挙


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