ノーベル平和賞と叫び【小松泰信・地方の眼力】2020年10月14日
「全ての人にとっての食料安全保障(food security for all)の達成、全ての国において飢餓を撲滅するための継続的努力、まず2015年までに栄養不足人口を半減することを目指すとの政治的意思を宣誓する。世界には8億人以上の飢餓・栄養不足人口が存在している。飢餓と食料安全保障は地球的規模の問題であり、世界人口の増加等に鑑み、緊急に一致した行動をとることが必要である」(1996年11月にローマで開催された世界食料サミットで採択された、「世界食料安全保障に関するローマ宣言」より抜粋)
ワクチンができるまで、最善のワクチンは食料
ノルウェーのノーベル賞委員会は10月9日、世界各地で飢餓の解消に向けて食料支援を実施してきた国連の機関「世界食糧計画」(WFP、本部ローマ;紛争や自然災害などの緊急時に、被災者や難民らを対象とした緊急援助などを行う目的で1961年設立)に2020年のノーベル平和賞を授与すると発表した。
「飢餓との闘いへの尽力、紛争地域での平和のための状況改善への貢献」などがその理由。加えて、新型コロナウイルスの拡大で飢餓の犠牲者が急増する中で、食料確保に向けて「めざましい能力を発揮した」と称賛されている。レイスアンデルセン委員長は、WFPのデビッド・ビーズリー事務局長が発した「ワクチンができるまで、この混沌に対する最善のワクチンは食料だ」との言葉を引き、コロナ禍に立ち向かう姿勢も高く評価した。
この平和賞は、飢餓による人道危機を直視するよう国際社会に促す重要なメッセージである。
食は生きる希望を与える
「飢餓とは遠い国の出来事だと私たちは思いがちではないだろうか。世界では全人口を賄えるだけの食料が生産されていながら、日々の食事もままならない人が数億人規模に上る。この現実を直視しなければならない」で始まるのは、西日本新聞(10月13日付)の社説。
「世界経済の成長に伴い飢餓人口は減少していたが、近年再び増加傾向に転じている。その要因に、まず中東やアフリカで顕著な紛争や内戦の長期化が挙げられる。異常気象による干ばつや大雨も農作物の被害をもたらす。特に今年はアフリカなどで穀物を食い荒らすバッタの大量発生が重なり、深刻な事態が生じている」ことに、「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が追い打ちを掛けている」として、解決のためには、「国際社会の結束こそ不可欠だ」と訴える。
さらに我々の食生活に目を転じては、「日本など先進国では食品が余り、食べられることなく廃棄されるフードロスが目立つ一方、子どもたちの食を脅かす貧困問題も深刻だ。日本の子どもの貧困は先進国でも高い水準にある。困窮する子どもらに食事と居場所を提供する『子ども食堂』が近年広がりを見せる。食は命をつなぐのに不可欠なだけでなく、生きる希望も与えるものだ。国際支援の充実とともに、私たちも身の回りで自分にできることを考えたい」とする。
飢餓のパンデミックと食品ロス
食料を巡る世界的状況を「飢餓のパンデミック(世界的大流行)」と呼び、それが「最も弱い立場にある子どもたちに、しわ寄せが及ぶ」ことを危惧するのは、中国新聞(10月11日付)の社説。
「日本でも一斉休校で給食を食べることができなくなった子たちの問題が浮上したが、そうした子たちは全世界では3億7千万人に上るという。(中略)貧しい国々では給食が1日で唯一の食事であることが多く、それなしには栄養を取れず、栄養不足は病気にもつながる。つまり学校が生命線でもある国々が厳然として存在することを、この機会に私たちは知っておこう」と、学校給食が果たしている重要な役割を強調している。
そして、「食品ロスを減らす運動の広がりは、世界の飢餓の現実を知るきっかけにもなる」として、飢餓問題の解決に一歩踏み出すことを提案。
食品ロス問題を取り上げているのが、福井新聞(10月12日付)の論説。福井県内の食品廃棄物が、13年度の約7万4000トンから18年度には約8万4000トンに増加したことを受け、対応は急務とのこと。
「恵方巻きの廃棄を減らす事業者の取り組みを紹介する新聞記事を基に、小学生が食品ロスについて学ぶ授業があった。予約販売を中心にすることで廃棄量を減らせると知り、自分たちでできる対策として捉えていた」と、同県勝山市の事例を紹介し、「子どもたちへの教育も大事だ」と指摘する。そして「食品ロスは、世界の飢餓や地球温暖化など環境の問題とも深く関わっている。(中略)『もったいない』の精神を大切にして大幅なロス削減へ一歩ずつ前進したい」とする。
2019年10月に食品ロス削減推進法が施行されてから、10月は「食品ロス削減月間」、今年の10月30日は「食品ロス削減の日」となっている。農水省の推計によれば、2017年度の食品ロス発生量は612万トンで、国民全員が茶碗1杯分のご飯を毎日捨てているのと同じ量になるそうだ。これだけの食品で、どれほどの命が救えることか。
この叫びが聞こえるか
東京新聞(10月13日付)は、日本世論調査会が行った全国郵送世論調査(8月26日発送、10月5日締切り。18歳以上の男女3000人を対象。有効回答2039人、有効回答率68.0%)の結果を伝えている。注目した回答結果は次の5点。(太字は小松)
(1)今の景気状況(大別);「良くなっている」4%、「悪くなっている」95%。
(2)本格的な景気回復時期;上位から、「21年7~12月」29%、「22年」27%、「23年以降」17%。「2021年6月まで」は7%。
(3)コロナ禍前と比べた家計の状況(大別);「良くなった」1%、「変わらない」55%、「苦しくなった」41%。
(4)コロナ禍で自分や家族が失職する不安(大別);「感じる」51%、「感じない」45%。
(5)必要な景気対策(二項目まで選択可);上位から、「コロナ収束対策」56%、「減税など税制見直し」41%、「資金繰りなど中小企業支援」30%。
ほとんどの人が、短期では回復しない景気悪化を指摘する。ほぼ半数が家計のやりくりに苦しみ、失職の不安を感じている。そして、コロナの収束を願いながら、今をしのぐための税制の見直しや中小企業への支援を求めている。いや、叫んでいる。
9月30日の当コラムで、女性の自殺急増を取り上げた。10月12日に厚労省が発表した9月の自殺者数(速報値)を昨年同期と比較すると、総数は8.6%増の1805人、女性は27.5%増の639人、男性は0.4%増の1166人。8月の40.3%増に比べると増加率は下がってはいるが、決して楽観できるものではない。人々の叫びを為政者はしかと聞け。
「地方の眼力」なめんなよ
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