一秒でも早く株式会社化が求められる大阪堂島商品取引所【熊野孝文・米マーケット情報】2020年10月20日
10月12日に公表された大阪堂島商品取引所(以下堂島取)経営改革協議会の「株式会社後の将来の取引所構想」。堂島取のホームページにも図入りで詳しく内容が示されているのでそちらを見て頂きたいが、一言で感想を言わせてもらうと「本当にそんなこと出来るの?」という一点に尽きる。なにせコメだけではなく原油や金の他、金融商品まで扱う「総合取引所」へ衣替えしようというのだから驚くしかない。
提言書の最後の部分には「『DOJIMA』は先物発祥の地として海外の先物関係者にも良く知られ、尊敬を受けており、このネームバリューは唯一無二の宝である。堂島の灯を消してはならない」と記されている。有識者のメンバーは大学の教授や金融のスペシャリスト、更には元金融担当大臣もいると言った具合で錚々たるメンバーだが、記者会見の席では、有識者の一人がこれまでの堂島のコメ先物試験上場を今日までを振り返り「腹が立つ」と発言した委員もいた。こうした思いが提言書の最後の文言になったのだろうが、おそらく最も腹を立てているのは堂島が株式会社になった際、一番発言力を持つ人物であるに違いない。記者会見では株式会社化になった際の代表者も含め、具体的内容については答えがなかったので、筆者なりにどうなるのか予測してみたい。
コメ業界にとって最も関心が高いのが、株式会社になる「堂島取ホールディングス」が先物取引所とは別に「現物取引所」を設立すると記していることである。現物取引所はEC卸売市場とEC消費者市場の2つを設立する。ECとはElectric Commerceのことで、パソコンやスマホ上でも売り買いが出来る。EC卸売市場はその取引システムを持っているところがあり、単に現物の売り買いをするだけでなく、先渡し条件の取引も可能で、やろうと思えば倉荷証券の売買も出来る。胆になる代金決済をどうするかと言うと清算会社である「クリアリングカンパニー」を堂島が設立してそこで清算業務を行うので代金の取っぱぐれの心配はない。しかし、これから現物取引所を作って会員社を募る時間的余裕はないはずだが、そこは手回し良く、現在、現物取引を行っている会社を買収することになっており、すでに株式も一元化してある。
EC消費者市場とは何かというと、消費者向けの小口のコメ証券を売買する市場である。昔、堂島では市場外で小口のコメ証券(コメ切手)が売買されており、それの現代版といったところ。なぜBtoCの市場が必要かと言うと現状のコメ先物取引市場は一般投資家が参加せず、市場流動性が極めて低いためで、これではヘッジ機能を果たせないからである。消費者向けに小口証券を発券して間接的に投資家になってもらうという算段で、これもすでに目途がついている。
堂島の筆頭株主になると予想される証券会社は500万口座2兆円もの資金を預かっており、こうした一般投資家向けにコメ証券を薦めれば良い。すでにこの証券会社は証券とリンクする精米販売の実証実験を行っており、コロナ禍で一時スーパーのコメ売り場で精米が少なくなった際、この証券会社がネットで先物とリンクした新潟コシヒカリの精米500万円分があっという間に売り切れた。これで分かることは、一般消費者向けに小口のコメ証券を発券して購入してもらうことで家庭内備蓄として大いに役に立つという事である。毎年500億円もの税金をつぎ込んで政府備蓄米を買い入れるより、市場に備蓄機能を持たせることが出来るのだから財務省が手を叩いて喜ぶだろう。
一般消費者に万が一の時のためにいつでも現物のコメに代えられるようにするためには現物の小口証券だけではなく、将来の精米価格が分かるようにする必要がある。それには全国で販売されている精米のビッグデータが必要で、1キロ当たりの単価を弾き出し、それを指数化して先物市場に上場すれば良い。そうしたビッグデータを出せる会社も存在するのだから難しい話ではない。なによりも一般消費者がコメの小口証券を持つことによってコメに関心を持ってくれる人が増えることが最大のメリットになる。なぜならコメの消費量が減少、3年産米は679万トンという信じられないような少ない生産目標数量が示されており、さらに生産量を減らさなくてはならなくなっているからである。農水省が手の平を返したように「1秒でも早く株式会社化しろ」と言っているのは、もはや今のコメ政策ではどうしようもないということを自ら認めているからであるに違いない。
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