(204)「古い」モノと「新しい」形【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2020年10月30日
昔の日本を舞台にしたアニメ映画が空前の大ヒットをしています。時代設定は大正時代、筋立てのユニークさだけでなく、登場人物やモノに関する難解な漢字を用いた名前、髪型、刀、衣装(これが小さな子供にも大人気)、風景、そして数々の「型」など、細部も非常に興味深いものです。原作者の才能や編集者とのチームワークも素晴らしいですが、個別要素の組み合わせ、意外とありそうでなかった作品なのかもしれません。
ある時期、世の流行となったものでも時間が経てば廃れていく。一般に「古い」という表現はビジネスの世界では余り良いとは言えない。特に仕事の手法や、時代の流れを即座に反映するマーケティングなどの分野では「古い」手法は敬遠されがちだ。
しかし、面白いことにある程度時間が経つと「古い」ものが別の形で蘇る時がある。20年ほど前には「レトロ」という言葉が流行った。「古い」ものを見直す動きそのものも循環するようだ。最近は父母や祖父母が若い時に着て、衣装ケース(箪笥)に入れたままの古着を、孫が最近の着こなしで着用したりすることもあるようだ。
食品も同じかもしれない。和菓子はかつての日本では当たり前であったが、ケーキに代表される洋菓子が台頭する中で厳しい状況に直面した。だが、実生活では日本人の多くは場面に応じて和菓子と洋菓子を適度に使い分けてきた。最近ではスイーツがブームになると「和スイーツ」というジャンルまで作り出している。代表的な「古い」素材の1つである「抹茶」は、今では和菓子だけでなく洋菓子やドリンクなどにも使用されている。起源は「古い」が「新しい」素材として市場を創造した例である。
次々と「新しい」モノが登場する中で、「古い」素材を「古い」方法で同じように加工・販売しているだけでは生き残ることは難しい。もちろん理想は「新しい」素材を「新しい」方法で売ることだろうが、実は「新しい」素材は出来ても、「新しい」方法に結びつかないことは意外と多い。
一方、素材は古ければ古いほど、伝統という名の縛りもあれば、関わる人のこうあるべきという「意識」が確立している。この「意識」は時に「文化」や「伝統」という何物にも代えがたい雰囲気を伴うから難しい。「これをこんな形で食べるなんて許せない!」というものだ。それでも時代の流れの中で物事は環境変化の影響を受ける。あるいは、何かのきっかけで大きく変わることもある。
恐らく重要なことは「古い」モノを「新しい」形、あるいは「新しい」モノを「古い」形で提供することであろう。そこに意外性が登場し、新たなマーケットが創造される。停滞・縮小ではなく、市場創造につながる訳だ。
先のアニメ映画で言えば、戦う相手は平安時代から存在したとされた日本の「古い」伝説上の存在である。また、大正時代といえば、1912-1926年、つまりほぼ100年前のことになる。登場人物が見たこともない最先端技術を駆使するSFファンタジーではなく、スーパーレトロのアニメ映画(背景など、作品の作成技法には最先端技術が駆使されているため、非常に美しい)がここまでヒットした個別要素は、意外にも大昔から存在した「古い」素材であり、それをかくも「新しく」まとめあげた点が鮮やかに浮き上がる。
農産物や食品も恐らく同じであろう。次から次へと形だけの新製品を開発するのではなく、何が本当に求められているのか、その組み合わせと手法をもう一度考える必要があるのかもしれない。
* * *
ヒットしたものにはそれなりの理由があり、多くの人が「なるほど」「これは面白い」と共感できるということなのでしょうね。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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