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TPPから日EU,日米、そして日英へと続く道【近藤康男・TPPから見える風景】2020年11月5日

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【【近藤康男「TPPに反対する人々の運動」世話人】】

2020年6月9日に始まった日英の交渉は9月11日大筋合意、そして10月23日に茂木外相とトラス国際貿易相とが東京で合意署名と、4ヶ月半という短期間での決着となった。日米貿易協定(+デジタル貿易協定)の半年を上回るスピード決着だ。そして自民・公明両党は既に10月27日に「日EU・EPAの範囲内」として了解した。

確かに日英EPAの24章(分野)のうち23章(分野)は23章からなる日EU・EPAと全て章(分野)の名称の文言は同じだ。唯一「21章貿易及び女性の経済的エンパワ-メント」だけが場違いな感じで加えられているだけだ。

発効は両国の国内手続きが終了し、かつ英国のEU離脱移行期間終了後の、互いに合意する日となっている。関税は日EU・EPAの関税率と削減・撤廃の期間が同じであれば、発効時点から日英にも同率が適用される("キャッチアップ")。これは日米貿易協定でも同じだ。

"これまでの協定の範囲内"でも、少しづつ譲歩は積み重なる

ザックリとはこれまでの通商協定、日EU・EPAの範囲内と言えないこともない。

しかし、TPP以来、新たな協定合意がされる都度、農業を引き出物として決着を図り、地域の暮らしや経済にしわ寄せが行くことが続いている。日米貿易協定では米国に対して農産物で特恵的待遇を与えることに道を開く文言などが加わわりTPP越えへの道も開かれているし、日EU・EPAではソフト系チ-ズの低関税輸入枠(16年目に撤廃)や木材の関税撤廃までの期間半減・緊急輸入制限無しなどがTPP越えとして加えられた。いくつかのル-ル分野でもTPP越えで決着している。

そしてTPP12での畜産酪農製品などの低関税輸入枠はそのままの数量でTPP11に引き継がれたままで、日米貿易協定で米国には新たに枠が差し出された。同じようなことが歪な形で日EU・EPAと日英EPAの間でも行われている。

投資紛争解決のためのISDS条項だけは、TPP以降俎上に昇らなくなっていることが唯一の例外かも知れない。
ル-ル分野・工業製品については次回触れるとし、今回は農産物について触れたい。

物品貿易では工業製品の輸出のために農産物は常に引き出物にされる

「日英EPA農林水産品に関する合意の概要」は、農水省ホームページから「国際→EPA/FTA等に関する情報→日英包括的経済連携協定(日英EPA)について」で読める。

物品貿易での交渉の主な柱は常に工業製品と農産品・加工品だ。そして日本が工業製品の関税削減・撤廃を要求すれば、農産物類では、価格競争力のある国は輸出拡大を求めるのは当然で、譲歩は避けられない。これが交渉では当たり前で、"守った"という言葉は常に言い訳めいた内容を含むものになる。コメを守った、という場合でさえ、TPPでは無税枠を米国・豪州に提供しており、文字通りの意味にはなっていない。従って通商協定を結ぶ度に農産物・食品は市場開放を積み重ねることとなる。

日英EPAの農産品では多くの品目について日EU・EPA並み(TPP越えも含め)となっているが、英国側が拘った品目では変則的な低関税枠・緊急輸入制限発動基準数量が設定された。ソフト系チ-ズ、小麦粉・加糖調製品乳製、乳製品など10品目について日EU・EPAでEU向けに設定された低関税枠が余った場合には"事後的に英国に割り当てる"という変化球で決着している。牛豚肉、ホエイ、生鮮オレンジなどの緊急輸入制限についてもEUと英国からの輸入合計数量が日EU・EPAでの数量に達した場合に英国にも発動できるという変化球での決着だ。

理屈上は整合しそうだが、特に低関税枠適用は後にならないと分からないため、輸入以降の国内価格への関税の反映は透明性を欠いたものにならざるを得ない。そのことは英国内の生産者にとっても間接的に影響する筈だ。


協定署名のために来日したトラス貿易相は日経のインタビューで、「(今後の交渉で日英EPAの対象を拡大する意向を示し)ISDS条項などを含め更に深化させる用意がある」と明らかにしている。農産品については5年後の再協議の規定も気になる。

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