(205)8世紀:日本と中国の妙【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2020年11月6日
8世紀の日中の歴史を読み直す機会がありました。今から1200~1300年前の話です。中高時代に丸暗記したいくつかの用語が全く異なる装いを伴い現れたとき、時間を経ても残るものと、早々に忘れ去られるものの違いに少々思いをはせた次第です。
日本史で8世紀と言えば、日本で最初の法律「大宝律令(701年、以下同様)」である。この法律は初めて「律」と「令」が揃ったもので後に「養老律令(718)」に置き換わるまで草創期の律令制国家の骨格となった。「律」は刑罰に関する規定、「令」は一般行政(現代の行政法・民法など)に関する規定である。
中高の歴史では、この後は武蔵国から銅が献上され「和同開珎(708)」が鋳造、さらに平城京(奈良)へ遷都(710)し、奈良時代という流れである。経済的には物々交換が中心の時代から貨幣経済への転換点とされる。貨幣使用促進政策として、遷都翌年には「蓄銭叙位令(711)」が出ている。貨幣を蓄え朝廷に献上すると「叙位」、つまり「位階」を授けるというものだ。日本銀行などなかった時代である。放出した貨幣を再び政府に還流させ、同時に勝手に貨幣鋳造を行うことを禁止したものであろう。
その後、時の朝廷は壮大な計画を立ち上げる。これが「百万町歩開墾計画(722)」である。民を10日間働かせて開墾し、一定以上の収穫をあげた百姓には勲位を授け、税負担の一部(庸)を免除などが内容だが、どうも百万町歩達成は難しかったようだ。
翌年、「三世一身の法(723)」が出される。土地を新たに開墾した場合、開墾者から三世代までの私的所有を認めたものだ。一般に言われる律令制度には「律」「令」「格」「式」という分類がある。「律」と「令」は先のとおり法律の条文であり、「格(きゃく)」はいわばその改正や追加、「式」は施行規則・細則と理解すればよい。現代では「格式(かくしき)」と言えば、礼儀や作法、身分などを言うが、この当時の種類を示すときは「格(きゃく)」と「式」あるいは「格式(きゃくしき)」とも言うようだ。
当時は恐らく全ての土地が「公地」である。今風に言えば、未開墾の公用地を民間に開墾させるために一定のインセンティブを与えたことになる。
それから20年後、歴史の試験ではほぼ必ず出題された有名な「墾田永年私財法(743)」、さらに9年後には奈良の大仏建立(752)が、いずれも聖武天皇治世下でなされている。
8世紀は中国との関係でも興味深い。中国は前世紀後半に実権を握った中国史上唯一の女性皇帝(当初は皇后)、周の則天武后による有名な時代(690~705)が続いたが、彼女の死後、国名は再び唐に戻る。そしてこれも日本人には有名な玄宗の時代(712~756)が始まる。
玄宗の時代は詩人では孟浩然、杜甫、李白、書家では顔真卿など、文化的も非常に盛んな時代である。楊玉環が貴妃として迎えられたのもこの時期(745)である。
* * *
日本が「墾田永年私財法」を発布した翌年、詩人の李白と杜甫が親交を結び、その翌年玄宗は絶世の美女楊貴妃を迎える...。さらに、日本では唐詩の全盛時代の影響を受けたのでしょうか、少し遅れた同時代に柿本人麻呂、山部赤人、大友家持など、そうそうたる歌人が登場しています。彼らの成果の一部は大仏開眼後に「万葉集」として編纂され、今も親しまれています。中国と日本の相互作用(?)の妙が何とも面白いと思いませんか。同時代のヨーロッパの話はまたの機会に考えてみたいと思います。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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