種苗法改定「賛成25%、反対15%、判断できない61%」の意味――偏った情報により結論を急ぐ危険性【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】2020年11月11日
当研究室の学生の卒論研究の一環として、情報提供の仕方によって生じるアンケートへの回答差の程度を分析中である。用いた事例は種苗法改定であり、一部分だけ集計した暫定結果であるが、興味深い回答が得られたので紹介しておきたい。
農家を2グループに分け、農水省説明(説明A)と代替説明(説明B)を読んで、種苗法改定への賛否などについて回答してもらった。QRコードを読み込んで回答してもらうネット調査である。
説明Aは、種苗法改定の目的は、(1)種苗の海外流出の防止、(2)育成者権の強化による新品種開発促進(農家負担は増えない、農家の種利用は制約されない)、という内容である。
これに対して、説明Bでは、農水説明に加えて、(1)海外流出阻止の決め手は海外での品種登録で、自家増殖の許諾制ではない、(2)育種家の利益増加は農家負担の増大と農家の種利用の制約につながる、という懸念材料も含めた内容である。
説明Aを基にした206人の農家の判断は賛成34%、反対11%、判断できない55%、農水説明に懸念点も含めた説明Bを読んだ、別の206人の農家の判断は賛成25%、反対15%、判断できない61%、である。
懸念材料も含めて読んだ人たちは、賛成が9ポイント少なく、反対が5ポイント多く、判断が難しいと答えた人が6ポイント多い。与えられた情報が回答に大きな差を生じさせることが確認され、良いこと尽くめに見せることによる世論誘導の危険性が認識される。
良いこと尽くめに見せる説明Aでも判断が困難とした人が55%おり、いずれの説明でも、まだ判断がし難い人が過半を占めるということは、今回の改定については、一番の当事者である農家を中心に、一層の情報提供と議論、意見交換が必要であり、法改定を急ぐことには疑問を呈さざるを得ない。
さらに、地域の在来種を守り、農家が種を利用できる権利を確保する公共的支援の仕組み(在来種保全法など)の必要性については、反対する人は3~5%と極めて少数で、賛成が説明Aに基づいた回答者のほうが49%、説明Bに基づいた人のほうが40%となっている。
種苗法改定に肯定的な回答が多いほうが、改定を容認する代わりに、それとセットで、在来種を守る仕組みをつくる必要性を感じている傾向が示唆される。このことは種苗法を改定するならば、その弊害を除去するために、農家の種利用の権利を確保し、農家負担の増加を抑制することができるように種苗法改定案の中にそのための修正を入れ込む、あるいは、そのための補完的な法律をセットで成立させるべきとする見解と通じるものがあると思われる。
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