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(206)国際大豆マーケットの集中度【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2020年11月13日

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昨日(11日)、米国農務省の需給見通しが発表されました。20代の頃から40年近く毎月確認している情報です。始めの頃、第1報は米国のニュースで流れたものを駐在員からのFAXで受け(私の時代にはテレックスはほぼ不使用)、詳細は後日航空便で送られてくる紙の冊子で確認していました。情報の内容もですが、入手方法も随分と変わったものです。

今回の発表で事前に気にしていたことの1つは中国の大豆輸入数量見通しである。先月の発表では1億トンという数字が出ていたが、結果は同数量で再確認された形となった。簡単に言えば、2020/21年度、世界の大豆生産数量は3億6264万トンであり、そのうちブラジルが1億3300万トン(37%)、米国が1億1350万トン(31%)を占める。上位2か国で68%である。これにアルゼンチンの5100万トン(14%)を加えると、生産量は上位3か国で全体の82%となる。それにしても凄い構造になったものだ。

さて、競争法の世界では、ある業界におけるプレーヤー間の競争状態を測る指数としてハーフィンダール・ハーシュマン指数(以下、HHI)というものがある。何やら難しそうだが、計算方法は簡単だ。

業界の中におけるプレーヤーとシェアがわかる場合には、それを2乗して合計するだけだ。例えば、A社、B社、C社の3社が競うある業界で、各社のシェアが40%、30%、30%の場合には、HHIは40×40+30×30+30×30=1600+900+900=3400になる。

この数字は何を意味するか。仮にある業界のプレーヤーが1社しかなく、シェアが100%の場合、HHIは100×100=10000である。これが最大であり、経済学では完全独占ということになる。逆にHHIがゼロなら完全競争という訳だ。次の問題は、この数字が幾つ程度なら適正かということになる。

筆者の恩師の一人はこの競争法の権威であり、ある時期、その影響もあり結構こうした分析にハマったことがある。先の例で言えば、3社が共存している場合のHHIは3400だが、A社に対抗するためにB社とC社が合併するとシェアは60%となる。その結果、新たなHHIは40×40+60×60=5200となり、1800も上昇する。これはまずい。

競争法の世界ではこれを水平合併と言い、どの程度の水準が適正であるかについて、米国司法省などではガイドラインを公表している。HHIは簡単に言えば、集中度を表わしている訳だが、1992年に発行され、1997年に改定された米国のガイドラインでは、以下の3つに大きく分かれている。

 
  HHI 1000未満   非集中
     1000~1800  やや集中している
     1800超え   高度に集中している

さて、ここからはコラムだからできる試みである。世界の大豆生産国のHHIを試算してみよう。小数点以下をどこまで厳密に計算するかで数字は多少異なるが、余り気にする必要はない。単なる計算練習である。最新の米国農務省の生産量と輸出入の数字をもとに計算すると、大豆の生産国を1つの市場として見た場合、HHIは2600程度になる。

また、大豆の輸出および輸入を各々1つの市場として見た場合、そのHHIは3900前後になる。結論は明らか、いずれも高度に集中している。計算をするまでもない。

実は本当に考えるべきはここからである。

企業間の合併であれば、B社とC社の合併は、公正競争が阻害されるためストップがかかる可能性が高い。では、農産物の生産の場合、これに相当するものは何か。つまり、どこかの国や地域が自由貿易や比較優位の原則のもとで圧倒的な優位性を獲得した場合、それを止めることはこれらの原則に従っている以上はなかなか難しいということだ。わかりやすい対抗策としては、守る方は関税、攻める方は補助金といったようなものであろう。その水準をめぐって各国は何十年も協議をしてきた訳だし、それも中長期的な大きな流れの中では是非を別として、無くなる方向が大勢かもしれない。

* * *

歴史を振り返れば、製造業では競争力を意識的に向上させるため、政策的判断として合併を認めてきた例が世界各国に存在します。ところが、産地とリンクしている農産物は簡単に本社や工場を移すような訳にはいきません。したがって、ある地域や農産物が強力な競争力を備えた場合、どのような手法でこれに対抗するか、これはまさに生き残りのための知恵を絞る、慎重で長い闘いが続くことを意味しています。



本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】

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