自助だけに頼るコロナ対策【森島 賢・正義派の農政論】2020年11月16日
コロナの感染者が、全国でまた増えだした。しかし、政府の対策は、国民に対して、いわゆる三密の回避、つまり自助を要求するだけである。そして、公助、つまり感染症対策の鉄則である、検査の徹底による感染者の早期発見と早期隔離、および重篤化させないための早期治療を怠っている。
この対策によって、政府は、感染を蔓延させた責任を、三密の回避つまり自助を怠ったとして、国民に押し付けようとしている。そして、政府の責任ではない、といいたのだろう。
これが、菅義偉政府のコロナ対策についての基本姿勢である。菅首相がいう自助とは、このように、公助の放棄を意味している。
アメリカはどうか。先日の大統領選挙で決まったバイデン次期大統領は、当選後の第一声で、最大の政治課題はコロナ対策だ、といっている。そうして、科学者を集め、科学に基づく対策を作って実施しようとしている
対策の内容は、全国民を無料で、定期的に検査する、というものである。
これは、菅義偉政府のコロナ対策とは対照的である。
バイデン次期大統領は、就任後にさっそく実施しようとしているコロナ対策を発表した(本文末尾を参照)。その冒頭には標語のようにして、「Listen to science(科学に耳を傾けよう)」と書いてある。
これが、次期大統領のコロナ対策の基本姿勢なのだろう。ここには、科学と科学者に対する絶大な信頼がある。これは、トランプ現大統領のコロナ対策の没科学性に対する痛烈な批判である。
◇
対策の内容をみると、第一に掲げているのは、全てのアメリカ人が無料で定期的に検査できるようにする、というものである。そのために、ドライブスルー検査を2倍にし、また、在宅検査やインスタント検査を拡充して、検査能力を桁違いに増やす(scale up ......by orders of magunitude)、といっている。
これは、まさに公助である。いままでのトランプ現大統領のコロナ対策とは違うし、菅首相の対策とも違って対照的である。自助だけに頼っていない。図式で表すと次のようになる。
トランプ現大統領 ・・・ 自助・科学無視( ・・・ 菅首相)
バイデン次期大統領 ・・・ 公助・科学重視( ・・・ ???)
このアメリカの背景に何があるか。
◇
ある報道(時事通信)をみると、CNNによる大統領選挙の出口調査によれば、コロナ対策を経済再建よりも優先させることを望む人は、バイデン支持者では大多数の80%だった。しかし、トランプ支持者では僅かに18%だったという。このように、国民の意見は2つに分かれて、対立している。
もちろん、バイデン次期大統領は、両支持者の分断を傍観しているわけではない。検査の対象を、「全てのアメリカ人」と強調している。
日本はどうか。
◇
菅政府は、科学者に耳を傾けるどころか、科学と科学者に対する根深い不信をもっている。学術会議問題でみられるように、科学者を屈服させようとしている。
そして、菅政府のコロナ対策をみると、勝ったバイデン支持者が主張する検査の充実を怠り、負けたトランプ支持者が主張しているように、経済再建を偏重している。
政府のこのようなコロナ対策に対して反対し、科学に耳を傾けて、感染の拡大を阻止するための検査の拡充を主張する、強力な政治勢力がない。
ここに、日本のコロナ問題の絶望的な深刻さがある。ここに、日本の政治の底知れぬ深刻さがある。
◇
野党の多くは、政府に追随するように、国民の自助としての三密回避を強調するだけで、公助、つまりコロナを早期に終息させるための検査の拡充を主張しない。だから、いったい全国に感染者が何人くらいいるのか、さえ知らないし、知ろうともしない。これでは、科学に基づく対策など考えられない。
それに加えていま、経路不明の感染者が多いことが、市中感染の深刻さを示していることさえ分かっていない。また、家庭内感染が多いことの原因が、感染者を隔離する施設の拡充を怠っていて、その不足のために、自宅療養を強いられているからだ、ということが分かっていない。すでに、医療崩壊は起きているのである。
このように、政府のコロナ対策に反対して対案を持っている政治勢力が、どこにもない。日本のコロナ危機が、その深刻さを深めている原因は、まさにこの点にある。
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