(207)「もみじ」と「かえで」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2020年11月20日
仙台は紅葉(こうよう)のピークが少し過ぎた頃です。昼食後の時間を利用して少し学内を歩いたところ、雑木林の中に紅葉(もみじ)が綺麗に色づいていました。一面の紅葉、それはそれで綺麗ですが、秋が進んだ雑木林の中にポツンと映える「いろは紅葉(もみじ)」もなかなかのものです。
「もみじ」と「かえで」のように、日常生活に余りにもよく馴染んでいるにもかかわらず、全く異なる表現の違いを聞かれると一瞬戸惑うことは多い。今はそういう時、携帯で即座に検索が出来るから詳細な違いを意識して覚えなくなってきたのかもしれない。
Wikipediaを見たところ、大昔、生物の分類の授業で「界・門・鋼・目...」と習ったことを思い出したが、ここでは、「もみじ」も「かえで」もムクロジ目(Sapindales)ムクロジ科(Sapindaceae)旧カエデ科)カエデ属(Acer)である。つまり、植物分類学的には同じものとされていることが確認できた。
似たような疑問を持つ人や蘊蓄を語りたがる人は結構多いらしく、ネットを検索すると「もみじ」と「かえで」の違いを説明したサイトはいくつも存在する。基本的に形で分けている。葉が細く鋭いものが「もみじ」、やや丸みを帯びたものを「かえで」と使い分けているようだ。なるほど、確かにそうかもしれない...と思い、納得したところで少し考えてみた。百人一首の中に有名な歌がある。作者は和泉式部の娘、小式部内侍である。
大江山いく野の道の遠ければ、まだふみもみず天の橋立
これは国語の試験で昔はよく使われた歌である。歌枕の大江山はどこか。掛詞(「生野」と「行く野」、「踏みもみず」と「文も見ず」)の意味、そして、最後の「天の橋立」とはどこか、また、日本三景を全てあげよ、など、クイズにはもってこいの作品である。
この中で、「文も見ず」はわかりやすい。「踏みもみず」の「もみず」は古語では「色が変わる」ということであり、確か「ダ行上ニ段活用」の「ぢ/ぢ/づ/づる/づれ/ぢよ」と、変なことを思い出した。こんな活用を試してみたのは何年ぶりだろうか。いずれにせよ、「もみじ」は色が変わることから「もみじする」となると、現代日本語で「お茶する!」というような表現と気分的にはかなり近い気がする。
一方、「かえで」は文字通り、葉の形が「蛙の手」に似ていることから「かえで」となったという説明が多い。Wikipediaは「蛙手」としている。
さて、これだけではスーパー・ローカルな話題のため、少しグローバルな視点に広げてみよう。
「もみじ」と「かえで」、英語ではいずれもmaple である。日本語でもメープル・シロップなどが良く知られているし、カナダの国旗はまさにメープルである。だが、もう1つ気になることがある。このmapleという単語の語源は、古英語mapul 、あるいはゲルマン祖語のmapulazのようだ(こちらはwiktionaryの説明。本当に便利だ)。要は、ゲルマン系の単語ということになる。
だが、先ほど、植物分類を調べていた時、「カエデ属」の英語はAcer と表記されていた。現代人にとってAcerは台湾の電子分品メーカー(2020年7月時点で世界第5位のPCベンダー)であるが、「もみじ」と「かえで」の世界では「カエデ属」を意味する。
このacerはラテン語に起源を持つ。筆者が昔習ったポルトガル語で「カエデ」あるいは「もみじ」はacereiroであり、スペイン語ではスペルが入れ替わったarceである。学名はやはりラテン語起源だな、確か、英語でも語頭のacには「鋭い」という意味の単語がいくつかある...、ということで「もみじ」の葉も先は鋭いし...、などと妄想した次第である。
パソコン・メーカーのAcerの製品は毎日のように各所で目にしていながら、筆者も季節が変わらないと「もみじ」や「かえで」とつながらないとは困ったものだ。それにしても、台湾メーカー、意図していたかどうかは不明だが、興味深い社名にしたものである。
* * *
「いろは紅葉」の名前の由来は葉の先が5つから7つほどに分かれ、「いろはにほへと」と数えたことに由来するそうですが、私が良く見るのは5つです。雑木林の中にポツンと「紅葉(もみじ)る」赤が今日は非常に印象的でした。写真は勤務先の大学構内で本日昼休みに撮影したものです。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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