遠くへ行きたければ皆でゆけ 藤井晶啓 日本協同組合連携機構常務理事【リレー談話室・JAの現場から】2020年11月20日
遠くへ行きたければ皆でゆけ
先日、ある県の常勤理事の研修会において話したことを紹介したい。第1世代からの組合員の世代交代はいよいよ終焉を迎えつついる。そして、次の第2世代・第3世代の組合員は、JAのことを実は知らない。だからこその「対話」なのだ。第2・第3世代がJAを協同組合として認識してもらうための、「協同組合らしい持続可能性」について考えよう。
自分の子や孫の時代へ
「持続可能性」は大辞林によると「資源が長期的に持続可能な利用条件を満たすこと」であり、「長期的」とは「ある時期までの間隔が大きい」ことだ。
では、「持続可能性」はどこまでの長さなのだろうか。自分は、SDGs(持続可能な開発目標)を最初に聞いたときは、「誰一人も取り残さない世界」に対して、恥ずかしながら非現実的でうさん臭さを感じた。
そういう自分でさえ、持続可能性がめざす時の長さを「自分の子や孫の時代へ」に言い換えることで、持続可能性をリアルに受け止めることができた。
近きをはかる者は貧す
新型コロナにばかり目が行きがちだが、日本の経済も社会環境もじり貧状態にある。我が国の貧困は年々、深刻化しており、日本人の人生の満足度はOECDでも下位に。少子化・晩婚化が進んでいるのは、若い世代の雇用が大幅に不安定化しているから。生活に困窮する母子家庭の割合は高齢者世帯のそれよりも高い。地域農業の担い手は高齢化している。
JA経営においても、コロナ危機が長期化し、超低金利が継続するなかで、これまでのようなある程度の人件費削減によって事業利益を確保するやり方は限界にある。
では、どうするのか。さらにリストラを増やすのか。
二宮尊徳は「遠きをはかる者は富み、近まをはかる者は貧す」と言った。目先の利益だけで物事を判断すると、できるだけ労力をかけずに成果だけを求める。だから「その場しのぎ」になる。必要なのは、目前の苦しさを直視しながら、それを乗り越えていく大きな夢を描けること。それができるのは、経営者である役員だけではないか。
経営が厳しくなると「これしか道はない」と主張する人がよく現れる。しかし、それは劇薬というよりも毒薬であることが多い。少なくとも全国一律の金太郎飴的なやり方がそのまま自分たちの地域・JAに合うはずはない。JAは食と農を基軸に地域に根ざした協同組合であるはずなのだから。
世代交代をふまえた新たな組合員組織
例え、支所・支店を統廃合するにせよ、残った施設を利用して、いろいろな組合員組織活動を増やすことはできないか。JAが大規模になるほど見えにくくなった人と人との結びつきや顔が見え、地域の課題解決をめざす「小さな協同」を増やすことはできないものか。
新たな世代に合わせた組合員組織の世代交代もありだ。組合員組織が強くなるのは、同じ年齢世代が同じ課題を共有し、思いを同じくできる「同志性」にある。それがなくなるから、義理だけのつきあいになる。
新型コロナによる外出自粛により、高齢者の中でガラケーからスマホに切り替え、SNSを始める人が増えたという。高齢になった我が親がLineグループでチャットを繰り広げている姿を見ると、新たなつながりの道は知恵次第だと思う。
主役は組合員であり職員は人手が不足しているのだから、職員は最小限の手伝いに徹することだ。実際、若い時に組合員組織の事務局経験がある職員は協同組合理念の高浸透者であり、事業実績も高い、という。
早く行きたいのか、遠くへ行きたいのか
「早く行きたいなら、一人で行きなさい。遠くへ行きたいなら、みんなで行きなさい」はアフリカのことわざであり、アル・ゴア アメリカ元副大統領がノーベル平和賞授賞式典で引用した。確かに、同じ価値観の人だけのほうが効率性は高く、スピード感もある。では、今、我々が見ているのは、遠い先と近まのどちらだろうか。
少なくとも、自分たちの子や孫の時代に、わが地域がどんな姿になってほしいのか、その遠い先を見据えて、今、手間をかけても第2・第3世代の組合員や役職員みんなで知恵を出しあうという対話ことが「協同組合らしい持続可能性」ではないか。
(藤井晶啓 日本協同組合連携機構常務理事・企画総務部長事務取扱)
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