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国会審議で見えた種苗法改定の真の狙い~論点の再整理【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】2020年11月24日

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【鈴木宣弘 東京大学教授】

種苗法改定の国会審議から、種苗法改定の真の狙いと論点がよりクリアになったので、再度整理しておきたい。

論点1 種苗の海外流出の防止は自家増殖を制限するという種苗法改定の建前であり、真の目的ではない。なぜなら、農家の自家増殖が海外流出につながった事例は確認されておらず、海外流出防止の手段は自家増殖の制限ではない。

論点2 いちご、ぶどう、さくらんぼなどが海外流出したのを問題視しながら、一方で、農業競争力強化支援法8条4項で、コメ麦大豆の種の知見を海外企業も含む民間企業へ譲渡せよと要請したのは、海外流出を促進することになり、完全な矛盾である。

論点3 それでは、自家増殖制限の真の目的は何か。それは、TPP(環太平洋連携協定)でも製薬企業が求めたように、知財権の強化による企業利益の増大である。TPPでは製薬会社からの莫大な献金を背景にして共和党のハッチ議員が新薬のデータ保護期間を延長して薬価を高く維持しようとした。基本構造はこれと同じである。

論点4 農家の権利を奪って企業利益の増大につなげようとするのは、人の山を勝手に切ってバイオマス発電したもうけは企業のものにし、漁民から漁業権を取り上げて企業が洋上風力発電でもうける道具にするという農林漁業の一連の法律改定(しかも同じ企業が絡んでいる)とも同根である。

論点5 農家の負担が増えないという説明には無理がある。育成者権者の利益増大は、裏返せば、必然的に農家負担の増大につながる。
「登録品種の自家採種に許諾が必要になるが、許諾料の負担は小さいから影響はない」と言われるが、自家増殖が育成者権者から許諾(許可)されることを前提にした議論は根本が間違っている。問題は許諾料の水準云々でなく、自家増殖を許諾してもらえず、毎年、買わないといけなくなることである。
公的機関の種だから引き続き許諾してもらえる、と自明のように議論してはいけない。「種子法廃止→農業競争力強化支援法8条4項→種苗法改定」は、「公共の種をやめさせる→それを企業がもらって→もらった種の権利を強化してもらって買わせる」ことだから、公共の種が企業に移り、許諾してもらえなくなって種を毎年買わなくてはいけなくなる流れは今後進む。許諾ありきの議論に意味はない。

論点6 自家増殖を許諾制にするのは登録品種だけで、登録品種の割合が1割程度しかないから影響ないと言うが、そのデータの根拠も完全に揺らいだ。登録品種の割合はもった高いというデータが示されている。かつ、在来種に新しい形質を加えて登録品種にしようとする誘因が高まるから、それが広がれば、結果的に在来種が駆逐されていき、多様性も失われ、種の価格も上がり、災害にも脆弱になる。

論点7 ただし、農水省の説明が破綻していると農水省を責めるのは酷である。なぜなら、農水省の担当部局の意思とは関係なく、別次元からの指令で決まったことを実施させられ、苦しい理由付けをさせられているのが農水省である。漁業法改定も森林の新法もまったく同じで、良識ある官僚は断腸の想いだと察する。

論点8 野菜の種は日本の種苗会社が頑張っているとはいえ、90%が外国の圃場で種採りしている。種まで遡ると野菜の自給率は80%でなく8%しかない。コロナ・ショックで海外からの種の供給にも不安が生じた。さらに、コメ麦大豆も含めて、自家増殖が制限され、海外依存が進めば、食料確保への不安が高まる。食料は安全保障の要であり、食料の源は種である。

論点9 種は何千年もみんなで守り育ててきたものである。それが根付いた各地域の伝統的な種は地域農家と地域全体にとって地域の食文化とも結びついた一種の共有資源であり、個々の所有権は馴染まない。育成者権はそもそも農家の皆さん全体にあるといってもよい。
種を改良しつつ守ってきた長年の営みには莫大なコストもかかっているといえる。そうやって皆で引き継いできた種を「今だけ、自分だけ、金だけ」の企業が勝手に素材にして改良し登録して独占的に儲けるのは、フリーライド(ただ乗り)して利益だけ得る行為である。
つまり、共有財産たる地域の種を、育種のインセンティブを削ぐことなく、育種家、種採り農家、栽培農家を公共的に支援し、一部企業のみの儲けの道具にされないように歯止めをかけながら、地域全体の食文化の持続的発展につなげるための公共的枠組みこそが求められている。



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