「すったげ、うめぇ」コメ『サキホコレ』はブランド米になり得るか?【熊野孝文・米マーケット情報】2020年11月25日
秋田県の新品種秋系21の名称発表披露会で、秋田県出身のタレント佐々木希さんが「サキホコレ」と名付けられた新品種を試食した際「すっぱげ、うめぇ」と秋田弁で感想を漏らした。メディアでは「すったげ、うめぇ」や「しったげ、うめぇ」と表現されている。以前横手市に出向いた際、宴会になり、酔った地元の農協役員や生産者が地元の言葉でしゃべりはじめ、通訳付きで会話に加わり、内容は半分程度も分からなかったが心地よい時間が過ごせた。サキホコレも良いが「すったげ、うめぇ」という名称もありかも知れない。
Web上で開催された新品種発表会
秋田県の主力銘柄といえば言うまでもなく「あきたこまち」である。本格デビューした昭和60年産の作付面積は2877ヘクタールであったが、その爆発的ともいえる人気から平成3年には7万ヘクタールを超え、7年には8万ヘクタールまで達し、全県の作付面積の8割を占めるまでになった。その後、生産調整の強化もあって元年産は5万8100ヘクタールまで減少したが、それでも依然77.5%を占めている。
デビュー当時のことを良く知る米穀業者によると「当時、コメの品種名と言えば関取の名前みたいなものばかりであったが、『あきたこまち』という女性名詞は新鮮だった」と振り返る。あきたこまちがデビューした当時、秋田県で作付されていた品種と言えばレイメイ、トヨニシキ、キヨニシキ、ササニシキ、ヨネシロと言った名前で、言われてみればそうした感もある。あきたこまちの系統名は秋田31号で、この時も名称が公募された。応募された名前はアキタワセ、アキホナミ、アキニシキなどカタカナ5文字が多かったが、その中から「あきたこまち」というひらがな6文字の名称を選んだ知事の選抜眼は確かだったというしかない。同時に「美人を育てる秋田米」というキャッチコピーもなかなかのもので、産地視察に出向いた際、角館でバスの中から女子高生の集団を観た瞬間、このキャッチコピーを実感させられた。なぜ秋田県に美人が多いか諸説あるが、そのことに触れると大ヒンシュクだけでは済まなくなりそうなので止めておくが、長らく日本酒の1人当たりの消費量が全国一だったことも関係しているかもしれない。
「サキホコレ」と名付けられた秋系21も名称が公募され海外からも名前が寄せられ応募総数は25万件にものぼった。その中から最終候補に残った名称は「秋うらら」「あきてらす」「秋の821」「稲王」「べっぴん小雪」「サキホコレ」というもので、最後は夜も寝られずに考え抜いたという現知事が決めた。稲の花が咲き誇った時は豊作になるという言い伝えと郷里を誇るという思いをかけたという事だが、本当に咲き誇れる品種になるか否かは10年後でなければ分からない。
秋田県によると「サキホコレ」の本格デビューは令和4年産からで、この年に800ヘクタール4000tを生産、将来的には秋田県のコメ生産量の10%に相当する4万tまで増やすことにしている。
もう一つ今月には福島県が日本一のブランド米を目指すという新品種「福、笑い」のプレデビューイベントを開催した。「福、笑い」は福島県が14年の歳月をかけ育種した新品種で、イベントでは、冒頭、福島県知事が挨拶に立ち、「福、笑い」には(1)日本一のコメを作り感動を消費者に伝えたいという思い(2)ネーミングとパッケージにこめられた思い(3)GAP認証を受けた生産者のコメ作りに対する思いの3つの思いが込められているとし、皆さんにぜひ手に取って食べて頂き感じて欲しいとアピールした。「福、笑い」アドバイザーのクリエイティブディレクターがネーミングやデザインについて、これまでのコメの文脈に囚われない「前例のないコメ」という力強いメッセージを込めた。皆さんに届けることが出来る日が来てとても嬉しく思うと語った。また、パッケージデザインを手掛けたデザイナーは、コメは沢山の世界を一カ所に集めた象徴で、日本人が持っているコメの世界をどうにかして表現したいと思って、この一枚に思いを込めたと述べた。
秋田、福島とも自県産の新品種を日本一のブランド米にしたいという思いは分かる。そうした思いを消費者に伝えるべく大手広告代理店が活躍しているわけだが、その中の1社にその産地米をブランドデビューさせるうえでアドバイスを求められたので、ノコノコと出かけて行った。正直にその県のコメ作と市場評価を話したところ、話終わってディレクターから「熊野さんは○○県に恨みでもあるんですか?」と真顔で聞かれた時には驚いた。実態を知らないのに日本一のブランド米にするという広告代理店の力には脱帽するしかない。ちなみに秋田県はサキホコレのイベント代に6300万円の予算を計上した。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(119) -改正食料・農業・農村基本法(5)-2024年11月23日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (36) 【防除学習帖】第275回2024年11月23日
-
農薬の正しい使い方(9)【今さら聞けない営農情報】第275回2024年11月23日
-
コメ作りを担うイタリア女性【イタリア通信】2024年11月23日
-
新しい内閣に期待する【原田 康・目明き千人】2024年11月23日
-
基本法施行後初の予算増確保へ JAグループ基本農政確立全国大会に4000人 生産者から切実な訴え2024年11月22日
-
「適正な価格形成」国関与で実効的に JA群馬中央会・林会長の意見表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
JAグループ重点要望実現に全力 森山自民党幹事長が表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
農林水産省 エン・ジャパンで「総合職」の公募開始2024年11月22日
-
鳥インフル 米モンタナ州、ワシントン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
鳥インフル オランダからの生きた家きん等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
11月29日「ノウフクの日」に制定 全国でイベント開催 農水省2024年11月22日
-
(411)「豚ホテル」の異なるベクトル【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月22日
-
名産品のキャベツを身近に「キャベツ狩り選手権」開催 JA遠州中央2024年11月22日
-
無人で水田抑草「アイガモロボ」NEWGREENと資本業務提携 JA三井リース2024年11月22日
-
みのるダイニング名古屋店開業2周年「松阪牛ステーキ定食」特別価格で提供 JA全農2024年11月22日
-
【スマート農業の風】農業アプリと地図データと筆ポリゴン・eMAFF農地ナビ2024年11月22日
-
自動運転とコスト【消費者の目・花ちゃん】2024年11月22日
-
イチゴ優良苗の大量培養技術 埼玉農業大賞「革新的農業技術部門」で大賞受賞 第一実業2024年11月22日
-
「AGRIST Aiサミット 2024」産官学金オープンイノベーションで開催2024年11月22日