どっちを見ても行きずまりだ【坂本進一郎・ムラの角から】第37回2020年11月29日
今、農村・農業は八方ふさがりの状態に置いてきぼりにされて、憂鬱のなかにある。例えば、米価下落時の下落補填によるナラシ対策に加入している農家は3割に過ぎないという。この補填制度は人気がないからであろう。
また、18年から政府は生産調整の音頭取りをやめ、生産量の目標を各県に任せたが、目標は目安に過ぎないので、強制力も計画性もなく農家の人にお願いするだけである。もともと生産調整は計画性がなければ生産量の「過剰」「不足」を招来しかねない。仮に過剰か不足の場合1918年の富山のコメ騒動を再現しかねない。
この点で不信と不満は、来年の適正なコメ生産は、過去最高の56万トン(10万ha相当)を減産しければ達成しないという(その後7万haに修正されたが)。こんなに過去最大の減産事業をしてやっと679万トンの需給均衡点に近ずくという。しかしこんなに大規模の減産事業なのにこれを県に任せるというのは、農水省は職場放棄でないか。それ以上に大きな問題はアメリカの余剰農産物のはけ口として日本が利用されていることである。海の向こうのアメリカは日本の後背のように、強引に余った農産物を売りつけてくる。小麦が安楽死したのもアメリカのお蔭であった。
小麦大量輸入のスタートはアメリカ農産物の余剰農産物の処理に求められる。1954(昭和29)年のMSA協定を調印するころすでにMSAと同じくらいの小麦が入っていた。埠頭で小麦の積み荷が降ろされているのをみた農業関係の人は、これは楽だ、金さえ払えば転作の畑作物を仕入れられる。この話を聞いた別の農業技術関係の人は、「アメリカとMSA協定を結んでからどっと小麦がアメリカからはいってきた。畑作転作をなまけ始めたのは昭和29年からだな」、とつぶやいたといわれる。つまり昭和29年のこの年まで「国内生産増大政策」で頑張っていたのに「輸入依存政策」に農政の基調が変わったのである。そしてやがて採算の合わない小麦は安楽死させられた。
今小麦の輸入は549万トン(2019年)、コメの生産量は上述のように来年は679万トンだという。その差130万トン。MSA調印当時の小麦輸入は600万トン。その後は300万トン台。アメリカは日本の輸入の許容範囲を見ているのでないかと勘繰りたくなる。いずれ549万トンもの小麦を輸入しているなら、この分を輸入しなければコメの生産調整は不要になる。しかしかつて生産調整不要論が唱えられたか否かは寡聞にして知らない。
この原稿を書いているとき、全農、日清製粉グループ本社が業務提携する。つまり輸入小麦から国産小麦に切り替えて行くと発表した。MSA協定による小麦輸入の頃、日本国内での小麦の需要は鰻登りであった。日本もここに目をつけ小麦需要を開発していれば農政も変わっていたかもしれない。アメリカの小麦戦略はキッチンカーであった。アメリカの小麦市場に穴をあける試みは面白い。
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