論文を書くことは恥をかくこと【森島 賢・正義派の農政論】2020年11月30日
欧州のコロナは、当面する山を越えたようだ。だが日本は、まだコロナ禍の真っただ中にあって、山の頂上は見えてこない。ここには、コロナ対策での科学感の違いがあるように思える。
表題は、初学者が先輩から諭される言葉である。論文を発表した後で、厳しい批判を受けて恥をかくことがある。しかし、それを懼れていたのでは、科学の進歩はない。そのことを戒めた言葉である。
ここで取り上げたのは、Googleが最近発表している日本のコロナ問題についてのものである。Googleは、日本のコロナの感染状況を、毎日のように発表している。それは、疫学の華ともいうべき感染状況の予測結果である。それを都道府県ごとに行っている。
だから近い将来、具体的には4週間後だが、予測が当たったか否か、が分かってしまう。だが、もしも当たらなかったとしても、恥ずかしいことではない。むしろ、こうした研究を行い、果敢に発表したGoogleに敬意を表したい。コロナ対策と科学を、一歩先に進めるものだからである。


図が2つあるが、上の図は、都道府県ごとの感染の現状であり、下の図は4週間後の状況を予測したものである。感染は大都市部だけでなく、農村部を含む全国の各地に拡大する、という予測である。
◇
この予測結果を詳細に論評する能力は、専門外の筆者にはない。しかし、政府による検査が全く不十分ななかで、したがって、全く不確かな基礎データに基づいて、しかも、ごく一部のデータしか存在していないなかで、これだけの研究結果を公表したことに敬意を表したい。
この予測が、仮に当たらなかったとしても、決して恥ずべきことではない。当たらなかった理由を検討すればいい。そして改良すればいい。科学だから、それができる。しかも、公開しているから、他の多くの人からの批判を得て、さらに改良できる。こうした検討を経れば、コロナ災禍の実態がより深部から認識できる。そして、適切な対策を立てるときの貴重な資料になる。
◇
だが実際には、不十分である。しかし、これ以外に、コロナの蔓延を予測した研究結果を見たことがない。一部にあるのかも知れないが、一般に公表されていない。だから、他の多くの科学者の知恵が得られない。あるいは、公開できない程度のものかも知れない。
いずれにしても、研究者の英知を集めて実態を究明し、研究を深め、対策の参考にすることが、いまの日本では出来ていない。そのために、どんな資料が必要かも分かっていない。
これは、研究者の怠慢ではないか。そうして政府は、近い将来、また遠い将来を見据えた対策がないまま、目先の対策に追われて右往左往している。研究者が、その社会的責務を果たしていないからではないか。
◇
経済学の華が予測にあるように、疫学の華も予測にあるだろう。
科学者は、利用できる全ての資料を集め、なければ実態を調査して作り出し、また、これまで先人たちが残した全ての理論を駆使し、不足するなら多くの科学者と議論して創り出す。そうして、それがどれほど真実に肉薄しているかを事態の推移によって評価する。
ここで、評価するのは神でもないし、人間の頭脳でもない。評価するのは、コロナの実態の推移という客観的な事実である。経済学でいえば、経済の実態の推移という客観的な事実である。
◇
こんどのコロナ問題のなかで、科学者は、こうした作業を忠実に行ってきたか。予測という手段を使って、コロナ禍の実態に迫ってきたか。そして、コロナ対策についての価値ある提言を、社会に向かって行ってきたか。そうした社会的責務を果たしてきたか。
いまの政府のコロナ対策は、目先の医療崩壊を防ぐことだけに集中してきた。そうして、医療体制の拡充と整備を怠ってきた。そしてその結果、コロナを市中に蔓延させてきた。
つまり、こうである。
◇
コロナ問題が起きた当初から、政府は検査を怠ってきた。理由は、検査を多く行うと、感染者が多くなって、感染者を隔離し治療する体制が崩壊する、というものだった。この考えが、いまでも続いている。
これは、医療崩壊を防ぐために感染者を放置する、という非人間的な考えである。そうして感染者を市中に放置する。その結果、コロナ禍が市中に蔓延する。感染者は、ますます多くなる。これは悪循環である。それだけでなく、本末転倒である。
医療体制は感染者のためにある。医療体制を維持するために感染者がいるのではない。だから、医療体制の不足が予測されるのなら、検査を減らして感染者の数を見かけの上だけで減らすのではなく、医療体制を拡充し、整備すべきである。
◇
しかし政府は、それを怠ってきた。そして多くの科学者たちは、警告をしなかった。そして、感染予測を行うことで、社会への分かりやすい警告を怠ってきた。予測という、誰もが感覚的に理解できる将来象を示すことを怠ってきた。そして、医療崩壊の寸前という、いまの状況を招来した。
ある有力な科学者は、今さらのように「個人の努力だけに頼るステージは、もう過ぎた」などといっている。これは、敗北宣言である。
為政者にとって、そんな身勝手なステージは、初めからないのだ。国民から民主的に選ばれた政治家にとって、無為無策でいい、などという無責任ですませるステージは、いままでもなかったし、これからもないのだ。
こんどのGoogleの感染予測は、このようなコロナ対策の体制にメスを入れたものである。こうした科学者の努力は、政治を覚醒させ、社会を大きく動かす力の源泉になるだろう。
いま政治に求められていることは、市中の感染者数を最小限に抑え込むことである。そのための検査体制と隔離、治療体制の抜本的な拡充である。コロナとの共存など、お断りだ。
(2020.11.30)
(前回 コロナ対策の非科学と無責任)
(前々回 自助だけに頼るコロナ対策)
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