コメ生産縮小政策を「憂慮」する中食業界団体【熊野孝文・米マーケット情報】2020年12月8日
「最近の農水省の生産調整に関する文書には『転換』という表現が使われていますね。これってもう水田には戻さないってことなんですかね」と集荷団体の部長氏。3年産米の生産数量目標は693万トン。2年産より36万トン、面積ベースで約7万ヘクタールも減反しなくてはならない。こうしたコメ減らし政策を「憂慮する」として農水大臣に面談、政策の見直しを要請した団体協議会がある。コメの年間使用量126万トンという国内最大の中食業界団体で組織される国産米需要推進団体協議会である。
野上農水大臣に提出した要請文書
コメの需要規模は中食・外食業界で320万トン、この内中食業界は161万トンと推計され、国産米需要推進団体協議会に参加している日本べんとう振興協会、日本惣菜協会、日本炊飯協会、日本弁当サービス協会の使用量は126万トンである。農水大臣に面談し「コメが主原料の中食業界においてコメの需要量が大きく減少することは『事業の縮小』を意味し極めて憂慮する」とし、手渡した要請文書の概要は以下の通りである。
(1)米価格の政治誘導について「生産政策と消費拡大は車の両輪として政策を建てられたと認識している。価格は市場が作り、政治は介入しないという不文律があった。しかし、農家の所得を倍増するという閣議決定のもと米価を倍にするというこじつけ理由で政治誘導が始まった。その結果、概算金はこの5年間で50%アップした。その財源の85%はコメ購入者に付け回された。その一方でコメ消費量は7年間で30%減少した。この原因は少子化・高齢化と言われているが、実際には『高い米価と洋風化』が原因で、小麦、パスタが無関税、関税引き下げで値下がり、コメ需要は益々減少」
(2)コロナ禍でコメ離れについて「とくに若年層、低所得者層のコメ離れが顕著で家庭内でも麺類・パスタが主食になっている。小売店の店頭は高価なブランド米ばかりが並び、コメを大量に消費する若年層が必要な低価格米が無い。家庭の収支は厳しくコロナ禍の巣籠需要で消費嗜好性は低下『消費拡大の最高のインセンティブは価格である』ことの認識が不足している。平成25年にコメの生産コストを10年で4割削減という数値目標立てたが、すでに折り返し地点を過ぎており、達成度チェックが必要」
(3)複数年契約について「高い農協玉を押し付けられる複数年契約は、卸業者、実需者にとってアダになっている。勝手に高くした現行の相対価格では契約出来ない。そもそも播種前契約、収穫前契約とも購入価格の設定がなく、価格設定のない契約は単なる事前申し込みであり契約ではない。しかも今シーズンは基準価格も公表せず、播種前契約、収穫前契約は『事実上自ら廃止した』と思われる」
(4)飼料用米について「飼料用米専用品種のコンタミが懸念され、原則的に団地化での生産の義務付けを要請する。現状は畔の区切りで生産されおり、これが稲作なのかと思われる圃場も散見される。将来構想として輸出を推進するなら飼料用米品種のコンタミがあれば国際的に指弾される」
(5)MA米について「MA米は1999年に77万トン/年に定められた当時のコメ需要量は1100万トンの7%=77万トンと記憶しているが、現在の需要量は700万トンなので50万トン/年が相当量と思われる。30年以上も見直さず77万トンの輸入には違和感を感じ『悪しき前例』とみる消費者層に、少なくとも『見直せない説明責任がある』。MA米、政府備蓄米、当年度の飼料用米等の需給見通し等を定期的に公表することを要請する」などとしている。
米価を維持するために生産量を絞って市場をシュリンクさせる政策にコメの最大需要者団体が現在のコメ政策を根本から否定する文書を直接農水大臣に手渡したのである。国産米需要推進団体協議会はコメの生産者にとって最大の味方である。なぜならその名の通り国産米を最も多く買っている需要者だからである。
今の農業政策は輸入小麦の売却価格を下げて需要を拡大、その分国産米の需要を削減する手法を取り続けている。歴代の農水省の事務次官経験者には一つの特徴がある。それは事務次官を辞めてから現職時代とは真逆のことを言うという特徴である。そのなかの一人がコメの需要を拡大するのは簡単だと言った。それは「輸入小麦の売却価格を上げることである」と。今のコメ政策を続けていると助成金や制度は残ってもコメは市場から消えてしまうと何度も言っているが、コメの生産を減らし続けて一体その先に何があるのか? 声高に叫んでいる食料安保はどうなるのか? 3年産米の生産目標数量を700万トン切る数値を示したのだから生産者ばかりか消費者等全国民すべてに説明する責任がある。
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