よしかわにしかわモウケッコ~【小松泰信・地方の眼力】2020年12月9日
「人間が月にでも行こうという時代に、私はこの階段を1人で上がることができません。目の前の部屋が月よりも遠い」と語ってくれたのは、同じ県営住宅に住んでいた足の不自由な方。30数年前のこと。
探査機はやぶさ2が届けてくれた小惑星リュウグウの砂の分析には、生命のキゲンに迫る研究の進展が期待されている。
しかし地上では、コロナ禍において生命にキケンが迫っている人が増えている。
12月8日の新型コロナウイルス感染による死者は過去最多の47人。同日時点の重症者は536人。
九州の主要地場企業の叫び
西日本新聞(12月8、9日付)は、同紙が11月17日から12月2日に九州の主要地場企業141社を対象に実施したアンケート調査(119社より回答)から、多くの企業が苦慮し、景気の先行きに不安を抱いていることを伝えている。
注目した回答は、次の4点(太字は小松)に整理される。
(1)景気の現状認識;「後退」18.5%、「緩やかに後退」22.7%、「足踏み状態」46.2%、「緩やかに拡大」12.6%、「拡大」はゼロ。「後退」「緩やかに後退」「足踏み状態」とした要因(104社、複数回答)については、「コロナ感染拡大に伴う需要減」が84.6%で最多。
(2)コロナ禍の自社への影響;「マイナス」49.6%、「ややマイナス」26.9%、「ややプラス」10.1%、「プラス」7.6%。
(3)政府のコロナ対策への評価;「不満」10.1%、「やや不満」29.4%、「やや満足」24.4%、「満足」0.8%、「分からない」32.8%。
(4)政府などに求める景気対策(3つまで回答);「新型コロナ対策の拡充」79.8%、「規制緩和の推進」26.9%、「地方創生への取り組み」25.2%が上位3項目。ちなみに、「携帯電話料金値下げなどの家計対策」は3.4%、「地方銀行の再編」はゼロ。
以上より、「コロナ感染拡大に伴う需要減」を最大の要因として、9割の企業が景気を「後退」「足踏み」状態にあると認識している。また4分の3の企業はコロナ禍によって「マイナス」「ややマイナス」の影響を受けている。
政府の対策についての評価は分かれているが、4割の企業が「不満」「やや不満」とし、8割が「新型コロナ対策の拡充」を求めている。菅首相が力を入れている、携帯電話料金値下げや地方銀行再編への期待はほとんどない。
収束見えぬ高病原性鳥インフルエンザ
農業に目を転ずれば、高病原性鳥インフルエンザの感染拡大にブレーキがかからない。日本農業新聞(12月7日付)によれば、11月5日に香川県三豊市で発生が確認されて以降、12月6日までに香川、福岡、兵庫、宮崎、奈良の5県で16例、計21農場、213万7000羽が殺処分対象となった。
そして、12月7日、広島県三原市の養鶏場でも高病原性鳥インフルエンザが確認された。
中国新聞(12月8日付)の社説は、「施設に隙間がないかどうかのチェックや防鳥ネットの設置をいま一度、徹底したい」と訴えるとともに、「パンデミック(世界的大流行)を今年引き起こした新型コロナウイルスも、野生動物由来の感染症とみられている」ことから、「自然界からの『警告』と受け止めるべきではないか」とする。
そして、国連が今年9月に打ち出した、人と家畜、野生動物を一体として健全に保つ「ワンヘルス(一つの健康)」の視点を紹介し、「長い目で持続可能な畜産を共に考えていくことを、私たち消費者も忘れたくはない」と提起する。
愛媛新聞(12月8日付)の社説は、「鳥インフルが発生した養鶏場では家畜伝染病予防法に基づき殺処分が行われるほか、近隣の養鶏場では鶏や卵の移動制限がかけられる。新型コロナウイルスの感染拡大による経営への影響もある中、鳥インフルの感染が重なれば、養鶏農家への打撃は計り知れない」と、その経済的影響に言及し、「養鶏農家への支援拡充や風評被害の防止対策を早急に検討すること」を自治体に求めている。
病める政治家 GO TO ホスピタル
ニワトリには何の罪もないが、病も事件も、時と場所を選ばない。
毎日新聞(12月2日付)は、「吉川元農相に数百万円」の見出し記事で、大手鶏卵生産会社「アキタフーズ」(広島県福山市)グループの元代表が、元農相の吉川貴盛衆院議員に現金数百万円を提供したと周囲に説明し、東京地検特捜部に対しても事実関係をおおむね認めていることを伝えている。
元代表が日本養鶏協会特別顧問として、「鶏卵の取引価格が下落した際に基準価格との差額を補填する『鶏卵生産者経営安定対策事業』や、家畜をストレスのない状態で飼育する『アニマルウェルフェア』の基準について、国や国会議員に陳情を重ねて」おり、「吉川氏にも働き掛けていたとみられ、現金提供には鶏卵業界に有利な政策を進めてもらう意図があった可能性がある」とする。
産経新聞(12月4日付)の主張は、「金品授受、職務権限、請託の3要素がそろえば贈収賄事件が成り立つ。だが吉川氏は不整脈を訴えて入院し、『ご心配をかけていること』を『おわび』して、党の役職を辞任した。それも健康上の理由である。国民は心配していない。政治家としての説明責任を果たしてもらいたいだけだ」と、バッサリ。
返し刀で「『桜を見る会』をめぐる疑惑に『事務所としては(捜査に)全面協力している』とのみ述べた安倍氏にも、同様のことがいえる」とはお見事。菅義偉首相や二階俊博自民党幹事長も名指しして、政治家は説明責任を果たせと迫っている。
毎日新聞(12月9日付)の社説は、この問題以外にも、秋元司元副国土交通相(収賄罪など)と河井克行元法相(公職選挙法違反)の起訴、安倍氏後援会主催の「桜を見る会」前夜祭の捜査、甘利明元経済再生担当相の建設会社側からの現金受取りを取り上げ、「倫理観の著しい欠如の表れだ。長期政権のおごりと緩みが生み出したものではないか。検察が近年、政界捜査に慎重だったことも影響しているだろう」と指弾する。
出ました、カネ持ってこ~や!
西日本新聞(12月9日付)は、関係者の取材から、このアキタフーズ事件に関連して、内閣官房参与の西川公也元農相も、2018年以降、現金数百万円を受け取っていたことが分かったことを伝えている。氏は、「悪いことはしていないが、自民党と政府に迷惑を掛けるので身を引く」として、8日付で内閣官房参与を退職。
小見出しに「農林族重鎮、問題尽きず」と記されているが、「カネ持ってこ~や!」とあだ名されるほどの御仁。栃木2区で2回連続落選させた選挙民の眼に狂いはない。それを内閣官房参与という非常勤の国家公務員に拾い上げた安倍前首相、菅現首相の眼は選挙民の眼、すなわち民意を無視、黙殺するものである。その結末が、これですよ。もちろん、任命責任が問われるよネ。
「地方の眼力」なめんなよ
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