(210)米国:世代規模で直面する危機【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2020年12月11日
新型コロナウイルス感染症の影響により、医療関係のニュースが連日報道されていますが、レストラン・飲食店関係も大変な状況が続いています。12月7日、全米レストラン協会(NRA:National Restaurant Association)は、直近の状況に関する調査に基づき、今後3週間で1万店舗が閉鎖する可能性があると発表しています。
この内容はCNNニュースなどでも報道されたが、NRAのプレスリリースの方が詳細かつ生々しく記されている。フランチャイズ、チェーン、独立系を含むあらゆる形態の50万以上のレストランが、経済的にどこまで落ちるかわからない状態に陥っている...というものだ。原文ではこれが、in an economic free fallと記されている。
NRAは11月17~30日の間に、全米6000のレストラン・オペレーターと250の供給業者へ調査を行い、以下の内容が判明したとしている。
(1)フルサービスのレストランでは平均36%売上が下落。平均利益率5~6%の業界ではこれは継続不可能な状態を意味している。そして、83%のレストラン・オペレーターは、今後3か月でさらに売上は悪化すると予想している。
(2)多くの独立系あるいはフランチャイズのオーナーにとっては売上が大きく減少しているにもかかわらず、コストは同じ割合で減少している訳ではない。59%のオペレーターは、コロナによるパンデミック以前よりも人件費は高騰していると返答している。
(3)将来は暗いまま。58%のチェーンおよび独立系のフルサービスのレストランのオペレーターは、少なくとも今後3か月間は一時解雇・レイオフが続くと予想している。
ニュース報道ではヘッドラインで「今後3週間で1万店舗閉店も」と記されており、全体の傾向は述べられているが、以下では少し補足しておこう。
例えば、上記の(1)に示されている業界の利益率のような部分だ。ここでは、簡単に利益率と書いたが、英語の原文はprofit marginである。ここで言う「利益」とは、粗利、営業利益、経常利益、税引き前当期利益のいずれでもなく、当期純利益のことである。
原価30円の食品を100円で販売して得る70円が粗利である。筆者はこれを学園祭経営と授業では紹介している。学生達は、この粗利を利益として楽しんでいるが、それは店舗の場所としてキャンパスと光熱費がほぼ無料で提供され、何よりも自ら楽しむために学生達自身の人件費も無料である。そのため「粗利≒当期純利益」に近い感覚で学園祭を楽しめることになる。これはこれで学生時代には非常に重要なことだ。
残念ながら今年はコロナの感染防止のため、この生きた実例を授業で体験的に紹介できないが、焼きそばやお好み焼きなどを販売している学生達全員の人件費と光熱費を支払い、最後に税金まで支払った場合、ほとんどの模擬店は経営が成立しないであろう。
話を現実に戻すと、英語のprofit marginは当期純利益であり、それが5~6%ということだ。100円の販売で5円の当期純利益という状況で、売上36%ダウンということになれば、そもそも64円しか売上がない。当初のコスト合計95円が同じように36%下がるかといえば、そんなことはない。よって利益など全くでない...ということになる。
ちなみに、日本で筆者が良く利用する某コーヒー・チェーンは年商約1300億円だが、粗利は60%、人件費や賃借料を含む販売・一般管理費を引いた売上高営業利益率は8%程度である。そして売上高当期純利益率は約5%のため似たような構造である。
要は、安い原材料に付加価値をつけ販売して得た粗利の大半が人件費と家賃というなかなか動かせない費用で出ていくということだ。企業でも家庭でも同じだが、経済が「回る」ということは、こうした固定的な経費を安定的に支出できるかどうか、それが全てである。
* *
ニュースが十分に伝えていないNRAのプレスリリースでは、調査対象の元レストラン・オーナーで、いかなる形であれ数か月あるいは数年先にこの業界に残るであろうという人は全体の半分(48%)以下であり、これは「世代規模での業界の才能、知識、起業家精神が失われる可能性」があると警告し、レストラン再生計画を準備中です。こちらは次の機会に紹介したいと思います。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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