(211)業界団体による「米国レストラン再生プラン」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2020年12月18日
先週は、コロナの影響を受けた米国のレストラン業界がいかに大変かについて全米レストラン協会(NRA)のプレスリリースを中心に紹介しました。今週は、そのNRAが業界団体として公表している要望を簡単に紹介します。米国と日本は感染状況や法制度が異なりますが、日本と日本のレストラン・飲食業にも有益となる「視点」がいくつも含まれています。良くも悪くもこういうときの米国の考え方は非常に参考になります。
NRAは「レストラン業界再スタートのための短期的救済策」として、以下を掲げている。字数の関係で適宜意訳していることをご了解頂きたい。
・レストラン再生基金の設立。米国のレストラン・オーナーは平均16日分の現金しか手元には無い中で、1か月以上の閉店や時短営業などに直面している。こうしたオーナーに当座資金を提供し、従業員を再雇用し、再び店舗をオープンするのを支援する構造化した仕組みが必要であり、これは現在上院で提案されたレストラン法の可決も含まれる。
・最初の8週間のPPPによる融資(注)を受けた人に対し、2回目の申請資格を制定することでPPP融資の成功を継続し、その延長と持続の支援に必要な変更を行うこと。
・PPP融資を税額控除の対象とし、小規模事業者が融資で直面する税金負担をなくすこと。
・PPP融資を超える、最大6か月間の運営費用と追加支援を提供し、重要な従業員の再雇用、再教育、保持を可能にする長期プログラムを作ること。
・従業員維持税額控除(ERTC:Employee Retention Tax Credit)を拡大し、PPP融資が切れた後にレストランが支援を受けられる形を作ること。
・従業員や顧客の安全を確保するための設備投資を支援するため、「顧客と従業員の安全」のための税額控除の仕組みを作ること。
・パンデミックによる損失をカバーするため、小規模事業者には、連邦政府による保証のもとで事業中断保険が適切な価格で利用可能となるようにすること。
・新型コロナウイルス感染症は世界的なパンデミックであり、いかなる1つのタイプのビジネスあるいは従業員により引き起こされているものではない。そのため、米国のビジネスのための責任保障を提供すること。議会は、軽薄あるいは詐欺的な訴訟を止めるために一時的な保護を実行すべきではあるが、悪い行為者による故意の不正請求も認めること。
(→筆者注:これは緊急時には事前の要件審査に時間をかけるのではなく、まず請求を認め、不正行為は後から徹底的に取り締まる...、ということが趣旨であろうと考える。)
・農場から食卓に至る米国のフード・サプライチェーンを保証すること。(ヘルスケア、救急隊員、脆弱な人々、の次に、)フード・サプライチェーンに関係する従業員のための検査とワクチン配布を優先させ、危機的な状況下においても、食品とレストラン業界全体が成長し、健康的な食品を販売、提供し続けることを支援すること。
・重要な部門の第一線の従業員が仕事を続け、人々にサービスを提供可能なように、必要不可欠な従業員のために給与の税金を減免すること。
・危機に瀕したコミュニティのレストラン支援を行うこと。高齢者、子供、そしてその他の脆弱な人々に食事を提供するために、レストランが政府やNPOと連携したときには、そのレストランに対し、インセンティブや支払いを提供して支援すること。
・危機の際の食品アクセスポイントを増加させる州政府運営のプログラムの設立と、現行の補助栄養援助プログラム(SNAP)を通じてレストランの食事提供を受けることができる資格対象者を拡大することにより、低所得の米国人に対するレストランの食事へのアクセスを拡大すること。
* * *
いかがでしょうか。事業継続のための融資、企業や経営者だけでなくフード・サプライチェーンに従事する従業員の給与に対する税金の減免、緊急時の不正請求への対応、ワクチン配布の順番、これらはまさに緊急時の優先順位の問題です。そして、食事の供給が危機に瀕したコミュニティにおけるレストランの役割とその活動に対する国や州レベルでの支援など、フードサービスが与える影響全体をそれなりに俯瞰していると言ったら言い過ぎでしょうか。あくまで業界団体の要望レベルですが、各種業界団体はこのくらいのことをしっかりと準備してほしいものです。
率直なところ、まだまだ日本では、店舗や従業員のオペレーションや顧客の衛生管理レベル(これらはもちろん非常に重要です)の話が多く、その先を見据えた対応が少ない気がします。余裕がある(?)うちに準備しておくにこしたことはありません。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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