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「建前→本音の政治・行政用語の変換表」最新版【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】2020年12月24日

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本コラムの初回は「建前→本音の政治・行政用語の変換表」から始まった。今回は、その最新の更新版をお届けしたい。追加項目の提案や修正提案も歓迎します。

●国益を守る=自身の政治生命を守ること。米国の要求に忠実に従い、政権と結びつく企業の利益を守ることで、国民の命や暮らしは犠牲にする。

●自由貿易=米国や一部企業が自由に儲けられる貿易。

●自主的に=米国(発のグローバル企業)の言うとおりに。

●戦略的外交=米国に差し出す食の安全基準緩和などの順番を考えること。「対日年次改革要望書」や米国在日商工会議所の意見書などに着々と応えていく(その窓口が規制改革推進会議)ことは決まっているので、その差し出していく順番を考えるのが外交戦略。

●大筋合意=偽装合意。交渉が決裂した項目は外して、合意できた部分だけをもって合意を偽装する姑息な用語(TPP11など)。類義語に「大枠合意」(日欧EPA)。内政での行き詰まりから国民の目を逸らすために外交成果を急ぐときの常套手段。納得していない国に早く降りるよう圧力をかける意図もある。

●win-winの日米貿易協定=win-winはトランプ大統領だった。日本から農産物も自動車も勝ち取った。日本は農産物を市場開放させられ、米国車の関税撤廃の約束は反故にされた。

●規制緩和=地域の既存事業者のビジネスとお金を一部企業が奪えるようにすること。地域の均衡ある発展のために長年かけて築いてきた公的・相互扶助的ルールや組織を壊す、ないしは改変する。規制緩和と言いつつ規制強化を行う場合(知財権の強化)もある。いわば「国家の私物化」。この国際版がTPP(環太平洋連携協定)型の協定で「世界の私物化」。

●規制緩和が皆にチャンスを広げる=規制緩和すれば、一部企業の経営陣がさらに儲けられる。多くの国民は苦しむが。

●1%の農業を守るために残り99%の利益を犠牲にするな=1%の企業利益のために99%の国民は犠牲にする。

●トリクルダウン=99%→1%に富を収奪しようとしている張本人が1%→99%に「滴り落ちる」という論理破綻。

●対等な競争条件(Level the playing field とか Equal Footing) =一部企業に富が集中できる市場条件。市場を差し出したら許す(例: 郵便局でのA社保険販売、その後も郵政叩きがなされ、A社保険販売ノルマが3倍に)。

●岩盤規制・既得権益=地域のビジネスとお金を一部企業が奪うのに(ドリルで壊すべき)障害となる公的・相互扶助的ルールや組織のこと。

●国家戦略特区=国家「私物化」特区。政権と近い特定の企業・事業体がまず決まっていて、その私益のために規制緩和の突破口の名目でルールを破って便宜供与する手段。自分だけに規制緩和するからおいしい。例: H県Y市の企業による農地購入。獣医学部問題。

●コンセッション方式=食い逃げ方式。国・自治体から一部企業が運営権だけ移管され、儲けられるだけ儲けてボロボロになったら返還する。水道料金を上げたり、施設を使い捨てで返還できる。国有林はハゲ山にして植林義務なし(税金で国民が負担)。

●情報公開=情報とは隠すもの。国民とは騙すもの。都合がいい情報だけ小出しにして国民を騙し、お友達に便宜供与する。これが首尾よくできるか、それが出世を左右する。それが快感になってくる。公開を迫られたときは黒塗り(「のり弁当」)にするか、記録を廃棄する(したこと)にする。ウソを貫徹した人は国税庁長官やイタリア一等書記官に異例の処遇をする。真実を述べた人は左遷したり、スキャンダルで人格攻撃する。

●誠意をもって丁寧・真摯に説明する=強引・姑息にごまかす。

●道半ば=経済政策(物価2%上昇目標など)の破綻のこと。

●失言=本音。

●記憶にない=事実と認めるわけにはいかない質問に偽証に問われないように答えるときの常套句。「私の記憶によれば○○していない」という言い回しもある。

●有識者=はじめから結論ありきの意に沿う人々。

●幅広い視点からの諮問会議の委員構成=反対する人は最初から排除する委員構成。利益相反的(自分が委員になって決めて自分が受注する)な賛成派、あるいは、素人で純粋に短絡的な規制緩和論者だけを入れる。「詳しい人や反対論者を入れたら決まらないでしょ。最初から決まった結論に持っていくためにやるのだから」と教えてくれた委員もいる。

●大義名分=本音を隠すためにつける建前の理由。例: 中国が反故にした米国産トウモロコシ購入を日本が肩代わりさせられたのを「害虫被害」(実際には発生していなかった)のための輸入としたり、農家の自家増殖を制限する種苗法改定の理由は種苗を高く買わせるようにすることだが、種苗の「海外流出の歯止め」と説明した。

●種苗法改定(自家増殖制限)の理由は海外流出の歯止め=自家増殖制限と海外流出は無関係で、真の目的は種を高く購入させること。「種子法廃止→農業競争力強化支援法8条4項→種苗法改定」で、コメ麦大豆の公共の種事業をやめさせ、その知見を海外も含む民間企業へ譲渡せよと要請し、次に自家増殖を制限することで、企業に渡った種(ゲノム編集などが施される)を買わざるを得ない状況がつくられる。自家増殖制限は種の海外依存を促進しかねない。

●地方創生=地方は原野に戻すこと。「なぜ、そんなところに無理して住むのか。無理して住んで農業やって、税金使って、行政もやらねばならぬ。これを非効率という。地域の伝統、文化、コミュニティもどうでもよい。非効率なのだ。早く引っ越して、原野に戻せ。」こうした方向性が完全に間違っていたことがコロナ禍で露呈した。

●改革の総仕上げ=国内外の特定企業などへの便宜供与を貫徹するという強い意思表示。種子法廃止、農業競争力強化支援法、種苗法改定、漁業法改定、森林の2法など、一連の改悪により、農林水産業の家族経営の崩壊、協同組合と所管官庁などの関連組織の崩壊にとどめを刺す。

●枕詞=国会決議などを反故にする言い訳に使うために当初から組み込んでおく常套手段の修飾語。最近の事例は、「聖域なき関税撤廃を前提とする(TPP)」「引き続き再生産可能となるよう」「濫訴防止策等を含まない、国の主権を損なうような(ISD条項)」など。

●附帯決議=ガス抜き。法律に対する懸念事項に一応配慮したというポーズ、アリバイづくり(賛成・反対の双方にとって)。参議院の公式ホームページでも「附帯決議には政治的効果があるのみで法的効力はありません」と明記されている。

●パブリックコメント=アリバイづくり。皆の意見を聞いたふりをして、膨大なコピーをとって審議会などで席上配布したのち、すぐに捨てる。

●単なる情報交換=米国に貢ぐ裏交渉のこと。日本のTPP交渉参加を米国に承認してもらうための「入場料」支払いのために水面下で2年間行った事前交渉の国民向けの呼称。国民を見事に欺いて米国への事前の国益差し出しに貢献したことで経産省初の女性局長(その後、総理秘書官を経て特許庁長官)に昇進した人もいる。

●生産性向上効果と資本蓄積効果=貿易自由化の経済効果を操作して水増しするための万能のドーピング薬。

●科学主義=疑わしきは安全。安全でないと証明される(因果関係が完全に特定される)までは規制してはならない。人命よりも企業を守る。対語は、予防原則=疑わしきは規制する(手遅れによる被害拡大を防ぐため)。

●専門家が安全だと言っている=安全かどうかはわからない。なぜなら、「安全でない」という実験・臨床試験結果を出したら研究資金は切られ、学者生命も、本当の命さえも危険にさらされる。だから、特に、安全性に懸念が示されている分野については、生き残っている専門家は、大丈夫でなくても「大丈夫だ」と言う人だけになってしまう危険がある。

●緊急対策=点数稼ぎの道具。政治家が自身の力で実現したのだと「恩を着せる」ための一過性の対策。政策に曖昧さを維持し、農家を常に不安にさせ、いざというときに存在意義を示すための日本的制度体系。しかも、既存の施策を○○対策として括り直して看板付け替えただけの場合が多く、「真水」はわずか。対語は欧米型のシステマティックな政策。対策の発動基準が明確にされ、農家にとって予見可能で、それを目安にした経営・投資計画が立てやすくなっている。

●日米安保で守られているから=対米従属を国民に納得される「印籠」。政策遂行に非常に都合がいいから、政治・行政は「日米安保の幻想」を隠す。実は、米国では北朝鮮の核ミサイルが米国西海岸のシアトルやサンフランシスコに届く水準になってきたから韓国や日本に犠牲が出ても、今の段階で叩くべきという議論が出た。米国は日本を守るために米軍基地を日本に置いているのではなく、米国本土を守るために置いている。

●国民の命を守る防衛費=米国の軍事産業を救う防衛費。米国が欠陥商品と認めるオスプレイを破格の1機100億円で17機、1700億円で購入するなど、至れり尽くせり。

●自殺=証拠隠滅(揉み消し)のために追い込まれた死or殺人の可能性、自衛隊員の戦死の偽装の可能性などについても、客観的事実に基づき検証する必要がある。

●不時着=オスプレイの墜落。

●武力衝突=自衛隊派遣が憲法9条に抵触しないよう、「戦闘」のことを「武力衝突」と言う。

●統合型リゾート(IR)=カジノ。

●国民の命を守るJ-アラート=国民の恐怖を煽り、失政から目を逸らさせ、政権支持の浮揚を図る道具。北朝鮮のミサイルは大気圏外に飛んでいるので弾頭以外の落下物があっても大気圏突入で燃え尽きるから日本国土に何かが落ちることはないことをわかっていながら、逃げろ、隠れろと警報を鳴らした。

●米国は常に日本とともにある=US stands behind Japan 100%. 北朝鮮のミサイル発射を受けトランプ米大統領が安倍総理に表明した意味深な言葉。

●貧困緩和には規制緩和の徹底が不可欠=グローバル企業が途上国を食い物にするための口実。

●コンディショナリティ=グローバル企業が途上国を食い物にするための要求条件。貧困緩和のためには規制緩和の徹底が必要と言い張り、途上国を支援する名目で、世界銀行やIMF融資の条件として、(アメリカ発の)グローバル企業の利益を高める規制緩和やルール改変(関税・補助金・最低賃金の撤廃、教育無料制・食料増産政策の廃止、農業技術普及組織・農民組織の解体など)を強いること。しかも、強制したのでなく当該国が「自主的に」意思表示したという合意書(Letter of Intent)を書かせる。

●SDGsに配慮している=掲げているだけのブラック企業に注意。今や、猫も杓子もSDGsだが、掲げているだけでは何も変わらないし、むしろ、「隠れ蓑」になってしまう。

●CSR(企業の社会的責任の履行)=「隠れ蓑」に注意。「安全性を疎かにしたり、従業員を酷使したり、周囲に迷惑をかけ、環境に負担をかけて利益を追求する企業活動は社会全体の利益を損ね、企業自身の持続性も保てないから、そういう社会的コスト(外部費用)をしっかり認識して負担する経営をしなくてはならない」というのは建前で、本当は、TPP型の ISDS条項で、企業が本来負担すべき社会的費用の負担(命、健康、環境、生活を毀損しないこと)の遵守を求められたら、逆に利益を損ねたとして損害賠償請求をしたい。

●主流派経済学=巨大企業の利益を増やすのに都合がいい経済学。

●独占・寡占は取るに足らぬ問題で、独占禁止政策も含め、規制緩和あるのみ=独占・寡占が常態化する市場で、それを抑制する政策も含めて規制緩和すれば、さらに市場を歪め、独占企業への富の集中を進められる(社会全体の経済厚生は低下する可能性がある)。規制緩和が正当化されるのは、市場が競争的であることが前提で、不完全競争(独占・寡占)市場での規制緩和は正当化されない。したがって、主流派経済学は独占・寡占の存在を無理やり否定する。

●新モノプソニー論=中小経営淘汰の珍理論。まず、モノプソニー(買手独占)はオリゴプソニー(買手寡占)に変えるべき。企業による労働の買い叩き(買手寡占)が問題と言いながら、処方箋は大企業への一層の生産集中(中小企業の優秀な労働力を低賃金で雇える構造の強化)という完全な論理矛盾。

●農業所得向上=農協を解体して、地域のビジネスとお金を一部企業が奪うための名目。(1)信用・共済マネーの剥奪に加えて、(2)共販を崩して農産物をもっと安く買い叩きたい企業、(3)共同購入を崩して生産資材価格を吊り上げたい企業、(4)JAと既存農家が潰れたら農業参入したい企業が控える。規制改革推進会議の答申はそのとおりになっている。

●農業協同組合の独占禁止法「適用除外」は不当=共同販売・共同購入を崩せば、農産物をもっと安く買い、資材を高く販売できる。「適用除外」がすぐに解除できないなら、独禁法の厳格適用で脅して実質的になし崩しにする(山形、福井、高知などで実施)。

●農協は信用・共済事業をやめて本来業務の農業振興の「職能組合」に純化すべき=農協から信用・共済ビジネスを奪うための理屈付け。こうすれば、農協は倒産するから、農産物も買い叩けるし、資材も高く売れる。農家が廃業したら、儲けられる好条件地には参入できる。

●准組合員規制=農協解体を遂行するための脅しの切り札。これをちらつかせて、すべてを呑ませていく。

●農業所得倍増=貿易自由化と規制改革で既存の農家が大量に廃業したら、全国の1%でも平場の条件の良い農地だけ、大手流通企業などが参入して儲けられる条件を整備し、一部企業の利益が倍増すればよい。儲からなければ転用すればよい。

●農業競争力強化支援法=農業競争力「弱体化」法。競争力強化に必要な協同組合の共販・共同購入を「中抜き」し、農業関連組織の解体と家族経営の崩壊を促進し、特定企業に便宜供与する。コメの公共種子を払下げで獲得し、遺伝子組み換えやゲノム編集種子で主要穀物市場を独占し、種子価格を吊り上げ、国民の命をコントロール下に置けるバイオメジャーには濡れ手で粟。

●酪農家が販路を自由に選べる公平な事業環境に変える改定畜安法=「だから言ったでしょ」というべき規制改革の失敗の典型。改定畜安法で事業参加した企業が集乳停止に陥った。腐敗しやすい生乳が小さな単位で集乳・販売されていたのでは、極めて非効率で、酪農家も流通もメーカーも小売も混乱し、消費者に安全な牛乳・乳製品を必要なときに必要な量だけ供給することは困難になる。つまり、需給調整ができなくなる。だからこそ、まとまった集送乳・販売ができるような農協による共同出荷システムが不可欠であり、そのような生乳流通が確保できるように政策的にも後押しする施策体系が採られているのは、世界的にも共通している。それを壊したらどうなるか、それを世界で唯一やってしまったのだから、結果は目に見えていた。

●漁家・漁協の既得権益の開放=浜のプライベートビーチ化。浜は既存の非効率な漁家の既得権益でなく、みんなのものだから、効率的な企業にも平等にアクセスできるように漁協に免許されている漁業権を開放しろ、と言って、結局、そう主張した企業が既得権益化するという詐欺的ストーリー。しかも、最終的には外資に日本の沿岸国境線を握られ、日本が実質的に植民地化する亡国のリスクを見落としている。

●漁場の共同管理をやめるべき=既存漁家から浜のビジネスを奪いたい。コモンズ(共用資源)は共同管理することで資源の枯渇による共倒れという「悲劇」を回避してきたのが理論的にも実証的にも確認されている。コモンズに短絡的規制緩和論を主張するのは根本的な間違い。

●日本の漁獲管理は欧米に比べて遅れている=大手企業による漁獲独占への誘導。日本漁業が乱獲で衰退したから欧米型の規制を入れるべきという流れに乗れば、漁船ごとの個別割当→売買可能→トン数制限撤廃→大手企業が独占し、沿岸漁民が職を失うか、『蟹工船』の世界になりかねない。

●日本漁村の自発的な共同体的なルールは遅れている=企業が権利を奪うための口実。欧米に遅れているのでなく、欧米からも日本の共同体的自主管理こそが最先端(長期的総合的に低コストで資源管理ができる)と注目されている。その効率性を証明した経済学者がノーベル賞を受賞した。上からの押し付けでなく自分たちでとことん議論して決めたルールだからみんなが守る力も強くなる。

●国際認証の取得推進=「認証ビジネス」の可能性に注意。取得・運用・更新費用、手間に見合うメリットの精査が必要。

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鈴木宣弘・東京大学教授のコラム【食料・農業問題 本質と裏側】 記事一覧はこちら

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