汗かけ、知恵出せ、国会議員【小松泰信・地方の眼力】2021年1月6日
「門松は冥土の旅の一里塚 めでたくもあり めでたくもなし」(一休禅師)
地方創生に魂を吹き込め
山陽新聞(1月1日付)の社説は、「お祝いムードもやや低調だが、今年はコロナ禍との戦いを終え、経済や人々の暮らしの再生に踏み出したい」としたうえで、「かすかではあるが東京から地方へと人の流れが生まれつつある」ことに、「未来への希望」を見いだしている。ただし、このかすかな流れを「大きな流れにするためには、旗振り役の政府に頼っているだけでは足りない」として、「地方の側も知恵を絞り、力をつけていく必要がある」との条件付き。
東京一極集中是正を目指し、政府に対しては、「移住やリモートワークへの補助金を設けて地方への人口移動をすすめるだけでなく、企業の本社機能の地方移転を税制などを総動員して進めるべきだ」と、提言する。
地方には、本社機能の誘致、地方企業の全国展開や世界展開の後押し、起業を目指す若者への支援、さらには農林水産業とデジタル技術の組み合わせ、などを提案する。
そして、「『働きがい』を求める若者たちに選ばれなければ、人口減少に歯止めはかかるまい」として、「若者たちをひきつける魅力づくりこそが、地方創生につながる」ことを強調する。
地方は権限を分捕れ
「頼りない中央政権/地方の時代を引き寄せよう」と題した河北新報(1月4日付)の社説は、コロナ危機では後手に回る中央政権を横目にして、何人かの知事や市長、東京23区の区長が、「検査態勢の拡大、休業した店への協力金、医療の逼迫(ひっぱく)した自治体への看護師派遣などアイデアを形にして、住民の福祉を高めている」ことに注目し、「地方の時代がすぐそこに近づいた」と、期待を寄せている。
「地方からの改革は市民を主役とし、多様な意見のぶつかり合いによって前に進む」として、「権限を分捕るぐらいの気持ちでいい」と、発破をかける。そして、「ことしほど民主主義のありようが問われる年はない。主権者も一緒に前進させる覚悟を持って見つめていこう」と、呼びかける。
地方創生は「東京離れ」からはじまる
東京新聞(1月4日付)は、日本世論調査会が、2020年11月9日から全国250地点の18歳以上の男女3000人を調査対象者に選び実施した調査の結果を、「一極集中是正・地方創生世論調査詳報」として伝えている。なお、12月16日までに届いたうちの有効回答は1933、有効回答率は64.4%。
本稿と関連のある質問項目の結果概要は、次の6点に整理される。
(1)東京一極集中を是正すべきか;大別表示すれば、「是正すべき」79%、「是正の必要なし」19%。
(2)東京一極集中の問題点(二つまで選択);「格差が拡大し、地方の過疎化や経済の衰退が進む」65%、「災害時、政府や経済の中枢機能がまひする」62%、これに「農林水産業の担い手が不足する」と「過密により感染症が広がる恐れあり」が18%で続く。
(3)有効な東京一極集中の是正策(二つまで選択);「企業の本社機能の地方移転」37%、「子育て世代が地方移住しやすい環境整備」34%、「在宅勤務などの『テレワーク』をしやすくする」と「東京と地方の賃金格差是正」が30%、これに「国の機関の地方移転」24%が続く。
(4)新型コロナ感染拡大を機に東京一極集中は緩やかになるか;「緩やかになる」21%、「緩やかにならない」76%。
(5)地方創生は進んでいると思うか;大別表示すれば、「進んでいる」10%、「進んでいない」90%。
(6)中央省庁の地方移転を進めるべきと思うか;「思う」68%、「思わない」30%。
以上の結果は、次のようにまとめられる。
2014年9月3日の第2次安倍改造内閣発足後の総理大臣記者会見で発表された「地方創生」は、6年経過してもまったくと言っていいほど進んでいない。換言すれば、東京一極集中は是正されぬまま。しかし8割の人が「是正すべき」としている。その主たる理由は、東京一極発展がもたらす弊害、すなわち「地方の衰退」と「リスク拡大」の抜本的改善である。
そのためには、「企業の本社機能や国の機関の地方移転」という、影響力や波及効果の大きい組織が「東京を離れる」ことと、「子育てや在宅勤務を支援する環境整備」や「賃金格差是正」がセットで取り組まれねばならない。
注目しておきたいのは(4)において、7割強の人が、コロナ禍を機には東京一極集中は緩やかにはならないと回答していることである。コロナ禍を契機とした自発的な地方移住は、山陽新聞の社説が記していたように「かすか」である。それを大きな流れにするためには、「この国のかたち」を変える覚悟で、是正策が講じられなければならないことを含意している。
お休みしている場合じゃない
しかし、現在の菅政権にはそこまでの覚悟はない。それ以前に、そこまで考えは及んでいない。
「菅政権は、デジタル庁新設や携帯電話料金の引き下げといった目の前の施策が多い。どちらにしても、時間軸の短いテーマであり、目先の課題を追うスタイルは続いていく。大きな改革には後ろ向きに見える」と、前述した河北新報の社説も見抜いている。
山陽新聞の社説(1月4日付)は、菅氏には「首相就任以降、記者会見や国会質疑では、ともに物足りなさが指摘されている。自らの言葉で思いを明確に語らなければ、国民の評価も上がるまい」と、野党には「野党連携で目指す国家像はどんなものか。まとめられる項目だけでも明確にすべきだ。政権批判だけでは国民への訴えにも力強さを欠く」と苦言を呈し、与野党に「ポストコロナの時代をにらみながら政策で競う」ことを求めている。
もちろん喫緊の要事として、新型コロナウィルス特別措置法の改正案の審議があるが、国会は冬休み。
「いつまで休んでいるのか」と題する信濃毎日新聞(1月6日付)の社説は、この特措法改正案の審議に関して「感染状況が深刻化する中、可能な限り審議時間を確保し、憲法に沿った実効性ある改正を早期に行う必要がある。菅義偉首相は直ちに通常国会を召集するべきだ」と、訴えている。
GoToトラベルがGoTo冥土にならぬために。この国に住むすべての人々に、一日も早く安心して暮らせる均衡の取れた持続可能な社会を提供するために。汗かけ、知恵出せ、国会議員。
「地方の眼力」なめんなよ
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