(213)全体から細部を見る【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年1月8日
2021年、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。
「with corona」の1年を経て、今年は「after corona」に移りたいものです。良くも悪くも、世界各地で起こったことがリアルタイムで共有可能な時代ですので、今後、私達は益々、グローバルな動きとローカルの行動を同時に考えることになりそうです。そのようなことを思いつつ、年末年始にある本を読んでみました。
名作は大昔に読んだ時と一定の年月を経て読んだ時の印象がかなり異なる。名作が名作と言われる所以である。
先日、久しぶりに本屋に行き文庫本を4冊購入した。トルストイの『戦争と平和』である。この本は19世紀初頭、ナポレオン戦争の時代を扱った大作である。
ナポレオン1世が皇帝として在位したのは1804-14年である。その間、1806年8月、ヨーロッパでは神聖ローマ帝国が消滅し、同年10月にイエナ・アウエルシュタッドの戦いを経て、ナポレオンはベルリンを占領する。そして11月、ベルリン布告(有名な大陸封鎖令)を出す。
1810年4月、ナポレオンはオーストリアの皇女マリア・ルリーザと結婚するが、この頃が全盛期であり、7月にはオランダまで併合している。何でも思い通りになった時期だ。
さて、後世の我々から見れば、その最たるものが、1812年5月のモスクワ遠征である。5月パリを出発したフランス軍は破竹の勢いで東進し、同盟軍を加えて約70万人、9月7日には有名なボロジノの戦いを経て、14日(ナポレオン自身は15日と言われている)にはモスクワに到達している。
だが、たどり着いたモスクワに必要な物資や食料は無く、制圧はしたものの何も出来なかった。そのため10月には撤退を始めたが、飢えと疲労、寒さ、さらに追撃するロシア兵に襲われ散々な撤退行と歴史は教えている。最終的に生きてフランスに戻った者はごく僅か、完全に失敗であった。
何故、ナポレオンはこのようなバカなことを実施したのだろうか。パリとモスクワの距離は陸路で約2500kmである。全員の衣食住、そして武器弾薬、これを全て準備してこの距離を移動することに誰も疑問を持たなかったのだろうか。日本列島の南から北まで(北から南ではない)移動するようなもの、例えば、人口60万人の鹿児島市の全員が徒歩で武具を背負い、冬服の用意無く稚内市まで移動するようなものだ。普通に無理...という当たり前のことすら考えられなくなっていたのかもしれない。
興味深いのは、こうした不可思議な流れと同じことが世界中で何度も繰り返されるという点だ。日本でもインパール作戦などがあるし、そもそも太平洋戦争そのものがロジスティックスという現実的視点を、精神的な「勢い」が凌駕した結果なのかもしれない。
現代ですら、企業の海外展開などで同じパターンが見られる。経営者の「勢い」だけで突っ走り、後ろを見たら顧客はおろか従業員すら誰もついてこない。急激な事業拡大の結果、離島のような営業所に取り残されている社員はいないだろうか。
コロナにより従来型のビジネスや活動の仕組みを再考せざるを得ないというのは紛れもない現実である。そして今、我々はインターネットを使った様々な仕組みに一斉にシフトしつつある。それはとりあえずの対応にはなるだろう。だが、誰かが作った仕組みを土台として上手く行くモデルは、その土台が変われば、あるいはより露骨に言えば、利用料が高くなれば根底から崩れる可能性があるという事だ。
したがって、農業にしても商業・工業やサービス業にしても、今年は一度、しっかりと自分の仕事のやり方を考え直す必要がある...これを『戦争と平和』を読みながら考えた次第である。
* *
目の前のことから世界の動きがわかると同時に、世界の動きから自分が本当に考えなくてはいけないこともわかります。ただ、多忙な現代人がそれをあらためて意識するには、時間の試練を生き残った歴史や文学などに触れるのが実は良いきっかけになるのではないでしょうか。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】ダイズ、野菜類、花き類にハスモンヨトウ 県内全域で多発のおそれ 滋賀県2025年9月19日
-
【サステナ防除のすすめ2025】秋まき小麦防除のポイント 除草とカビ対策を2025年9月19日
-
農業土木・鳥獣対策でプロフェッショナル型キャリア採用 課長級の即戦力を募集 神戸市2025年9月19日
-
脱炭素時代の国際基準を日本で実装 小売業や生産資材の参画を拡大へ 農林中金「インセッティングコンソーシアム」2025年9月19日
-
(453)「闇」の復権【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年9月19日
-
「1粒1粒 愛をコメて」来年産に向けた取り組み 令和7年度 水稲高温対策検討会を開催 JA全農ひろしま2025年9月19日
-
JA全農主催「WCBF少年野球教室」熊本市で27日に開催2025年9月19日
-
「長崎県産和牛フェア」東京・大阪の直営飲食店舗で開催 JA全農2025年9月19日
-
大阪・関西万博で「2027年国際園芸博覧会展 未来につなぐ花き文化展示」開催 国際園芸博覧会協会2025年9月19日
-
東京科学大学と包括連携協定を締結 農研機構2025年9月19日
-
素材のおいしさ大切に 農協シリーズ「信州あづみ野のむヨーグルト」など新発売 協同乳業2025年9月19日
-
オートノマス水素燃料電池トラクタを万博で初披露 クボタ2025年9月19日
-
農業の未来を包装資材で応援「第15回 農業WEEK」出展 エフピコチューパ2025年9月19日
-
東尋坊から「崖っぷち米」大手スーパー「ベルク」と直取引で関東圏初進出 福井県坂井市2025年9月19日
-
京橋千疋屋と初コラボ 完熟キウイで「2色のゼスプリキウイ杏仁パフェ」登場 ゼスプリ2025年9月19日
-
まるまるひがしにほん「栃木のおいしさ発掘便」開催 さいたま市2025年9月19日
-
おいしい「ぶどう」日本一は長野県須坂市の横山果樹園「ピオーネ」 日本野菜ソムリエ協会2025年9月19日
-
農業用ビニールハウスの品質が評価「優秀FDI企業トップ20」などに選出 渡辺パイプベトナム2025年9月19日
-
鳥インフル カナダからの生きた家きん、家きん肉等の輸入を一時停止 農水省2025年9月19日
-
宅配事業に新しい形「ナイトチア クロセチン&セラミド」など新発売 雪印メグミルク2025年9月19日