一発勝負になると予測される第1回政府備蓄米買入入札【熊野孝文・米マーケット情報】2021年1月12日
年明けの市中相場はコロナ感染症の再拡大による緊急事態宣言もあって荷動きが停滞、2年産米の目立った値動きはない。産地側の関心は目前に迫った3年産政府備蓄米の第1回入札に移っており、集荷業者の中には「第1回目から一発勝負になる」と予想しているところもある。なにせ今の需給状況が続けば3年産米の値下がりは避けられないという見方が強く、最も早く売り先が確保できる政府備蓄米の入札に関心が集まるのは当然ともいえる状況になっている。
3年産政府備蓄米の入札は第1回目が1月26日に実施される。買入予定数量は2産米と同じ20万7000tだが、変更点がいくつかある。一つは買入要件として最小売渡申し込み数量が10tから100tに引き上げられる(第2回まで)。また穀粒判別器を活用した買入、いわゆるB区分の数量が500tから2500tと5倍になった。都道府県別優先枠は18万5314t、一般枠が2万1686tで、産地別で買い入れ予定数量が多く2万tを超えているところは青森、秋田、山形、福島、新潟で東北、北陸各産地の枠が多い。
政府備蓄米については2年産米では倉庫不足により、落札業者の中には自県産米を遠方の倉庫に搬入しなくていけなくなったなどゴタゴタがあったことから受託事業体の中には3年産米に備えて各産地にテント倉庫を建設し、ここで主食用米の検査を素早く済ませ消費地向けに搬出、産地の営業倉庫に政府備蓄米の保管スペースを確保しようと動き出しているところもある。B区分の入札では新たに穀粒判別器を購入する集荷業者や作付規模の大きい生産法人もおり、第一回目から応札する予定。2年産政府備蓄米落札業者は「今になってみれば最も高く販売出来た2年産米は政府備蓄米だった」というのだから3年産についても早めに落札したいという思いが強い。そこで最大の焦点になるのはいくらで落札出来るのかということ。
応札資格者はその価格を試算しており、一例をあげるとこれまでの落札結果から推して農水省には価格の上限について一定のルールを設けており、そのルールを3年産に当てはめると2年産に比べ1俵当たり620円安と言うのがひとつの目安になる。農水省は落札価格を公表していないが、2年産の上限落札価格は1万3880円だったと推計されるので、これの620円安1万3260円と言うのが、一つの目安価格になる。現在の2年産米の市中価格からするとこの価格は大変魅力的な価格で応札するところが増えると予想される。とくに新規需要開拓米と主食用米をプール計算出来る農協等は3年産から収穫時に用途変更出来るようになったため「まず政府備蓄米落札を最優先する」という動きになるだろう。さらには「水田リノベーション」対策で3年産米の転作作物に助成金が上乗せされるためプール計算出来るところは政府備蓄米についても有利な立場に立てる。こうした要因があるため冒頭に触れたように「1回目が一発勝負になる」と明言する業者も出て来る。
それにしても万が一のために出来た政府備蓄米制度が生産者にとって一番有利な売り先になるという現象そのものがどこか狂っている。狂っているのはそれだけではなく、水田リノベーション対策で飼料用米に助成金が上乗せされることによって主食用米より生産者手取りが良くなる。昨年末、中食団体が農水省に出向き「なぜ主食用米の販売価格より高い助成金をエサ米に支給するのか」と質した。中食団体の試算によると飼料用米を生産すると生産者の手取りは1俵1万8000円にもなり、生産コストや主食用米の相対販売価格よりも1俵3000円、概算金より5440円も高くなるとし「主食用のブランド米よりも家畜のエサ米の方が2割も手取りが多い」、「2万円米価を実現する手段なのか」と憤っている。
大規模稲作生産者の中には自社で生産するコメはエサ米を作ってそれで得た助成金で市中から主食用米を購入して取引先に販売すれば2重に儲かるというところもある。生産調整が始まったころ農水省は単位面積当たりの転作助成金についてそこで生産されるコメよりも高い助成金を支払うことはあり得ないと明言していた。そうしたことを今言う農水省の人間は誰もいない。おかしいと思わないのだから生産物の代金より多い助成金を支払うことに疑問を感じることはない。政府備蓄米の買入代金もエサ米への助成金も税金であるためなんの痛痒も感じないというのが政策立案者で、痛い思いをするのはこうした政策でコメを高く買わされる納税者・消費者であるのは言うまでもない。
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