コメの全量買取証明書を発行する大手企業【熊野孝文・米マーケット情報】2021年1月19日
コロナ禍特需と問われて直ぐに答えが出て来そうな商品に「マスク」がある。このマスクを昨年1年間で26億枚、200億円も製造・販売した企業がある。Web上の記者会見で経営の要点を聞かれた代表者は「スピード感だ」と答えた。この会社は売上高が過去最高の6900億円という大企業に成長した。コメ事業に参入したのは8年前だが今や200億円を売り上げるまでになっている。今年、60億円を投資してパックご飯の容器工場や倉庫を福島や茨城に建設する計画も明らかにした。特筆すべきはコメの生産者や集荷業者向けに「全量買取証明書」を発行すると言っていること。
「スピード感」ある経営がどの程度のものなのかマスクを例にとると、中国大連にある同社の工場がマスクの生産をフル稼働させたのが昨年1月8日である。日本で最初にコロナ感染者が確認されたのが1月14日なので、それよりも1週間も前にフル稼働状態に持って行ったことになる。
同社がコロナ特需に対応した商品はマスクだけではない。サーキュレーター70億円、AIサーマルカメラ35億円、巣籠需要ではテレビ63億円、電気圧力鍋25億円、除湿器50億円、テレワークではLED証明120億円、シュレッダー18億円、ディスプレイモニター4億円といった商品もある。これらを自社で製造・販売しているのだから経営利益が621億円もある。
食品事業は家電事業やLED事業に比べると売上高では少ないが、投資意欲は旺盛だ。新しく飲料事業にも参入、全国各地にミネラルウーターの工場を建設するほか、伸びが期待されるパックご飯では容器工場や専用の倉庫も今年建設する。福島県南相馬では100ヘクタールでコメ作りを行い、そこで収穫されたコメを原料に「南相馬産」を謳ったパックご飯も製造販売する計画を立てている。会見で直接の説明はなかったが、プレゼン資料にはコメの買い付けについて「『コメの全量買取証明書』を発行し、地元金融機関からの融資を受けやすくします」と記されている。どういう事か? コメの担当責任者に問い合わせると以下のような答えが返って来た。
コメ全量買い取り証明書の活用手段手段としてはABL「Asset Based Lendingとは、取引先の流動資産(集合動産、在庫、売掛債権等)を担保として活用する金融手法。取引先は資金調達手段の多様化、機動的な資金調達、負債の組み替え、内部管理態勢の強化などのメリットがある」として活用できる。
(1)ABLとしての活用
・秋に必ずある程度確保できるお米はABLとして活用も可能。
・予め買取証明書を買い手よりもらっておくことで、金融機関からそれを担保に融資を受ける等。
・例えば、農業者への前途金など大きなお金が先づけて必要になってくるため、その資金に充当するなどの活用方法が可能となる。
(2)買取証明書による信用増
・ABLとはしなくても、例えば設備、運転資金などの融資を受ける際に有効になる場合がある。取引先としっかりとした関係を担保できれば融資が受けられる。
・金融機関がチェックするポイントは、「きちんと生産できるのか」、「販路はしっかりあるのか」、「キャッシュフローはしっかりしているのか」の3点。その中で販路の部分をサポートする書類として有用なのが買取証明書となる。
(3)販売確定証明としての活用方法
・買取証明書を提出することでライスセンターの構築などの証明書類とした事例あり。ライスセンターの補助金を得るためには、きちんとした買い手が必要であり、その証明として弊社の証明書を活用した。
・中間卸ではなく最終実需者としての証明書なので説得力が増した状況。
(4)集荷農業者に対する信用UP
・農家は販売先に対してどこでも良いから販売する人も多いが、販売したものがどこで活用されているのか、モチベーションにする人も多い。買取証明書を見せることにより、自分の米が「Aコンビニで使われている」と頑張る気持ちにつながる人も多い。
・買い手の信用アップ=お米の集荷に繋がってくる。
(5)その他細々したことについて
・買取証明書を発行する立場(実需者サイド)としては、相手との信頼関係がないと発行しないできないものが買取証明書である。
同社はコメ事業に参入した当初、各産地銘柄米の確保に苦労した。その時、各産地の集荷業者や大規模稲作生産者を7ランクに分けた評価表を作成し、仕入れ玄米の徹底した品質チェックや品種DNA判定を実施した。3年産米では同社から「全量買取証明書」を得られるか否かでコメ作りの経営に差が出て来るものと予測される。
(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】
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