東京五輪まで半年 全農・石川選手の涙の重さ【記者 透視眼】2021年1月23日
東京五輪開会式まで23日で半年。新型コロナウイルス禍で開催はどうなるのか。こんな中で、先日の全日本卓球女子・石川佳純(全農)の感動V。涙の裏に、感染収束が見えない菅政権下の五輪の行方とアスリートの苦渋を思う。(敬称略)
石川選手の素顔
卓球選手権は全農のシンボルマークがテレビ放映中にずっと出るので、JAグループにとっては絶好のPRとなる。食とアスリートは、健康・栄養というキーワードで結ばれる。だから、全農はスポーツ関連の応援に力を入れてきた。全農所属の石川選手をはじめ、野球や〈そだねー〉のカーリング女子などだ。安全で安心な国産農畜産物を消費者に安定的に供給する役割を担う全農の出番なのだ。
石川選手にはいくつかの思い出がある。以前、海外遠征から成田空港に降り立ったその足で東京・大手町の全農役員室に凱旋報告に寄った時だ。1時間以上遅れた。ちょうど平日夕方で交通渋滞にはまったらしい。ようやくやって来た佳純ちゃんは満面笑み。逆にこっちが癒やされる。そんな癒やし系の女性である。
その時、こんな事を聞いた。「中国トップ選手に勝つ自信はあるの。やはりレベルが違うのか」と。振り返れば失礼の極みだが、いやな顔せずに「強い。精神も肉体も」。だが「でも少し隙が見える時がある。今はかなわないとは思わなくなった。何とかなるという感じ」と応じた。そんな石川は試合前に聴く音楽を尋ねると「倖田來未とか」「そう。例えばムーン・クライングとか」「えー、何で知ってるんですか。若いですね」。こんなやり取りがあった。
素顔は、笑顔がかわいい普通のお嬢さんである。だが、いざ試合になるとギアがカチリと変わり戦闘モードに入る。
石川は、全農からの農産物、特にお米が試合の時の底力になるとも話した。
感動の大逆転
それにしても17日曜日の卓球全日本決勝は感動の連続だった。石川は10代半ばから第一線で活躍し五輪2大会連続メダルの27歳。一方の伊藤美誠は、若さと打点の早いバックハンドで中国トップ選手も撃破してきた伸び盛りの20歳。石川はゲーム1-3からの大逆転で5度目のV。勝利の瞬間、両手を突き上げた石川の目から大粒の涙があふれた。
「佳純ちゃん頑張ったね」。テレビの前でそうつぶやく自分がいた。これがスポーツの力かとも思った。石川は勝利インタビューで「もう無理なんじゃと思ったこともある。でもそうじゃないと自分が卓球を通じて教えてもらった。まだまだやれる。やりたい」。コロナ禍での試合がない日々。でも五輪を目指し〈折れない心〉を胸の奥に秘め育ててきた。万感の思いは、陰鬱なコロナ色に爽やかに広がる一つの暖色を落とした。
どうなる五輪
五輪まで半年と迫る中で、選手ならずとも誰もが思う。「五輪は本当に出来るのか」。結果次第で、半年後の北京冬季五輪にも影響が出かねない。
国会でも何度か質疑の応酬があった。菅義偉首相は東京五輪開催を「人類が新型コロナに打ち勝った証しとする」と繰り返す。総論ではそうだ。21日に衆院本会議で共産党の志位和夫委員長は「今夏の開催は中止すべき」としたが、菅は既に〈退路〉を断っている。再延期や3年後の2024年に後ろ倒しなどの声もあるが、そんな選択肢はゼロだ。
20日の代表質問で立憲民主党の枝野幸男代表が指摘した「万一の事態に備えたプランBはどのように準備しているのか」は的を射た問いだろう。だが菅はまともに答えない。当然、実際は観客数5割、あるいは無観客などの想定が水面下で進む。
100年ぶりパンデミック並み
すべてはコロナ感染状況次第だ。既に100年前のパンデミック、世界的流行のレベルに迫る。1920年のスペイン風邪は世界人口の4分の1、約20億人が感染した。死者1700万~5000万人とされ、第1次世界大戦の終息も早めた。今の新型コロナは毎日60万人以上が感染し来週中に世界で1億人に達する。
問題は世界最大の被害を受けている米国だ。既に死者は40万人を超す。100年前のパンデミックで死者50万にされるが、それに近い水準に達しつつある。米国の死者50万人となるのはスペイン風邪と150年以上前の内戦、南北戦争しかない。
期限は3月聖火リレー
既に今週後半からバッハ国際五輪委員会(IOC)会長は、各委員と五輪開催を巡り改めて意見交換を始めた。開催有無の大きな期限の目安は3月25日木曜日。この日から聖火リレーがスタート。始動の地は南相馬市など福島・浜通り。五輪は10年前の東日本大震災復興とも重なる。
つまりは2月にコロナ感染が収まるのか。菅が自ら区切った2月7日の「GoToトラベル」停止期限も2週間後に来る。
記者の〈透視眼〉で探れば、先の石川の"涙"は重い意味を持つ。無観客でも戦う強い意志と、後手に回る政府コロナ無策への悔し涙とも映る。
(K)
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