小野耕資『筆一本で権力と闘いつづけた男 陸羯南』【自著を語る】2021年1月27日
時は明治時代。一人の言論人がいた。その名は陸羯南(くが・かつなん)。安政四年に青森の弘前に生まれ、明治四十年に没した人物である。正岡子規を育てたことでも知られている。
羯南は上京し、明治二十二年に『日本』を創刊した。羯南は「維新の負け組」東北出身者として、日陰者の人生を歩んだ。しかし負け組の東北人であっても日本の為に貢献できる。そんな志をもって創刊したのが『日本』だった。だからこそ羯南の言論は「国粋主義」と呼ばれるナショナリズムを強く打ち出すものであったが、同時に弱き者、虐げられた者への温かい目線を持ち、権力や財閥に対する強い反骨心が前面に出たものであった。
本書はそんな羯南の言論にかけた人生を紐解きながら、改めて現代日本について考える物語である。
当時問題になっていたのが足尾鉱毒事件だ。田中正造らが問題の告発を行っていたが、その運動は進んでいなかった。足尾銅山が古河財閥によって経営されていたからだけではない。銅山がもたらす収益は、周辺の農業漁業がもたらす収益よりはるかに大きかったからである。御用医学者は「少量の銅はむしろ健康に良い」などと言い放ち、福沢諭吉の『時事新報』は官憲の言い分をそのまま垂れ流し、正造の告発にも冷笑的態度で臨んだ。
しかし羯南はそうではなかった。足尾の窮状を見て即座に特派員を送り、正造の活動を支援した。藩閥政府による自己責任論を厳しく批判する社説を掲載した。経済効率だけではない、弱いものも救われるべきという「人道」のためである。「銅と米とを見て、而して人道をば見ざるものなり」。生産額だけではない。そこに人々の生活があり、それを守っていくことこそが政治の仕事ではないか!
この羯南の熱き思いはカネや権力との癒着にまみれた当時の言論界にあって一片の清涼剤となったのである。
その他にも羯南は当時の地租増徴に反対し、農業を国の本とする言論活動を行っている。商業重視の田口卯吉と谷干城の論争を主催した。干城は、『日本』の有力な支援者であった。また羯南は百姓を兵糧製造機のように扱う当時の明治政府の軍拡路線も厳しく批判した。
「嗚呼此勤勉にして可憐なる百姓を絞り地方を枯渇せしめ国家の富強を謀らんとす。是れ猶ほ妻を殺して児の産まるるのを欲するが如し。是狂と云はざるを得んや」。干城の言葉である。地方を盛り立てていくことこそ羯南たちの志であったのだ。経済弱者も富裕層も、あるいは地方の人も都市に住む人も同じ日本人である。日本人一人ひとりが、どの人も持てる才能を日本のために尽くせる日本でなければならないのだ。
羯南は営利のために言論を行うことを嫌った。そのため新聞経営は苦労の連続だった。志を同じくする華族等からの寄付で新聞経営を続けていたが、その道のりは綱渡りの連続であった。しかしそんな中においても、羯南はあくまで公論を貫き、己の地位や名誉などの私心のために書くことはなかった。権力から発行停止処分などの弾圧を受けても、くじけず媚びることなく己の言論活動を貫いた。だからこそ羯南のもとからは後の明治、大正時代を支えた言論人が多く巣立っていったのである。
羯南は地方やそこに暮らす民の生活に思いを致す言論人であった。現代人に欠けているのは羯南たちが持っていた熱さだ。「飯が食へなくても、文章を書かなきやならんからな」。こうした筆一本に欠ける情熱が、現代の言論人にあるか。
文に生きた羯南の人生を振り返ることは、必ずや未来を作らんとする現代のわたしたちを鼓舞してくれるだろう。現代では羯南の名を知る者は多くない。羯南を忘れている日本人は、義憤を忘れている日本人だ。
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